21×16 years old

back | next | top

  01 おつきあいしてしてください/お題  

 
「最近、イタチが忙しすぎて辛い」
 サスケの発言に、ナルトはようやく美味しく焼きあがった肉を網に落としたし、キバは口の中に放り込んだ肉ではなく舌を思いっきり噛んだ。
 シカマルは聞かなかった振りをしてメニューを開き、サイはいつものマニュアル本のページを捲り始め、チョウジはナルトが落とした肉を素早く拾って口の中に入れる。
 けれどシノが、「辛いということはわかる。何故ならお前は暗い顔をしていたからだ」などと相槌を打ったため、不幸にもサスケの話は続行されることになった。
「家にいても滅多に顔を合わせやしない。イタチが忙しすぎて辛い」
「…十六になった中忍の台詞じゃねえってばよ、サスケ…」
「とりあえず、辛いのはだれだ?お前か?イタチさんじゃなくて、お前なのか?おれたちとしては、イタチさんであることに一縷の望みを託したいところなんだが、お前なのか?」
 キバの問いを、サスケは睨んで返す。
「イタチが忙しいくらいで弱音を吐くかよ。それにイタチが辛いほうがいいってどういうことだ」
 なるほど、多忙な兄を思いやる弟、という無難な納めどころはこれでなくなったようだ。
 イタチが忙しいため、辛いのはサスケ。かまってもらえないので、辛いらしいサスケ。
 うん、こういうことか。こういうことだ。状況は把握した。
 なので各々が焼き肉に復帰しようとしたその矢先、サスケが網の上にあった肉をすべてチョウジの口に放り込む。肉たちは再起不能だ。
「おれは、どうしたらいい?」
「いや、おれたちこそ、どうしたらいいんだ」
 項垂れるサスケに、思わずみんなでつっこんだ。



「とりあえず、イタチにいちゃんと一緒にいたいなら、サスケがイタチにいちゃんの休みの日にあわせて休みを取ればいいってばよ」
 ナルトは、慎重にチョウジを牽制しながら、肉を炙った。
「このドベ。お前に思いつくことくらい、おれだってとっくに考えている。一年くらい前からな」
「おれ、もうどこからつっこめばいいかわかんねーってばよ…」
 焼きあがった肉は、なぜだかしょっぱい。
 そんなナルトの隣にいたサイが今度は口を開く。
「じゃあサスケくんは、イタチさんの休日がいつかわからなくて手をこまねいている、と?」
「ああ。暗部の情報はそうかんたんには手に入らないからな」
「いや、訊けよ、本人に」
 とキバが言うが、サスケは「そんなことできるわけないだろ」とあっさりと退ける。
「なんで」
「そんなこと訊いてみろ。おれが、まるでイタチと一緒に休日を過ごしたいみたいだろうが」
「それのどこが間違ってるんだ。いろいろ間違ってるけど」
「まあまあ、キバくん。サスケくんは、たまたま休日が被った風を装いたいんだろう?ぼくもそっちのほうがいいと思うな。サプライズはよろこばれるって、ほらここに書いてある」
 サイはマニュアル本を開いてサスケに見せる。
 いやこれ誕生日のとき編だし。と横から覗いたナルトはそっと思った。
「暗部の人間には心当たりがあるから、訊いてみようか。ヤマト隊長なら、イタチさんとも接点があるだろうし」
「そうかんたんにいくか…?」
「サスケくんとふたりがかりなら、なんとかなるだろう。木遁はちょっとやっかいだけどね」
 どうしたらヤマトが木遁を使う事態になるのだろう。サイの笑顔に、サスケ以外は顔を引きつらせる。
 それでも賢明なシカマルは、今日は耳栓をして寝よう、と思った。
 そして、ふと思いつかなくてもいいことを、思いついてしまう。
「けどよ、休日だからといって、イタチさんがサスケと過ごすとは限らねえんじゃねえか」
「それもそうだね。なにか一緒の予定を入れといたほうがいいんじゃない、サスケ」
 シカマルの尤もな意見にチョウジも頷く。
 サスケは頭を抱えた。
 そう、それもやっかいな点だ。
 小さなころからサスケはイタチに修行に付き合ってほしいだとかなんだとかいろいろ強請ってはきたが、大概は「また今度だ」と額を小突かれて断られてきたのだ。
「なら、イタチさんが断りにくそうなことを言ってみたらいいだろ」
「そんなものがあるのか…?」
 頼む、IQ200。
「…いや、ここでそれを言われても」
 面倒くせえなあ、とシカマルは頭を掻いた。



「で、結果がこれかよ」
 サスケはがっくりと肩を落としていた。手にした箒がなければ膝をついていたかもしれない。
 イタチは少し離れたところで、一族の「昔はすごかった」らしいおじさんや、近所のおしゃべり好きのおばさんに囲まれ、談笑をしながら、掃除に勤しんでいる。
 二週に一度の町内早朝掃除に、今回は母ではなくイタチとサスケの兄弟ふたりが参加していた。
 誘ったのは、サスケである。
 確かにシカマルの狙い通りイタチは二つ返事でサスケに付き合うことを了承してくれた。
 むしろ、なんだか褒められてしまったくらいだ。
 だが、思っていたのとちょっと違う。いや、だいぶ違う。
 イタチは、こういった場でも穏やかに社交的に振る舞える。うちは本家の長子らしく、場慣れしているのだ。
 だがサスケは、いつもイタチの後ろに隠れていたせいか、誰と何を話していいのかわからない。
 必然的にサスケは人の輪ができるイタチから離れるはめになった。
 そうしてひとり黙々と掃き掃除なんかをやっている。
 ちらりと見遣ると、イタチはサスケに気づきもしないで、ご近所のおばさんのためにちり取りの役目を買って出ていた。
「ちぃっ」
 百歩譲って、せめて自分が掃き掃除をして、イタチがちり取りを持っているべきなんじゃないのか。とサスケは思う。
 どうしておばさんとツーマンセルを組んでるんだ、そこは弟のおれだろう、兄さん。とも思い詰める。
 だが、任務遂行率には定評のあるサスケだ。
 持ち場を美しく掃きあげたころ、イタチがようやく一族やご近所さんたちから解放されたのか、やって来た。
 手には、謝礼として渡されたのだろう、パックのお茶がふたつある。
「サスケ、そろそろ終わりだそうだ」
「あ、そう」
 手早く箒を所定の場所に片付けて、近くの水道で手を洗う。
 水を切ったところで、イタチがお茶パックを投げて寄越した。
 べつに喉は乾いていなかったが、いつまでも持っているには邪魔だったので、ストローをぺりっと剥がした。
 突き刺して、ちゅうと吸う。中身は生温かった。美味しくもなんともない。
 それでもサスケが黙ってそれを飲んでいると、イタチもサスケに倣って隣で一息を入れる。
 サスケはイタチを盗み見た。
 イタチはすれ違う一族のおじさんやご近所のおばさんに愛想よく会釈をしている。
 時折サスケにも声はかかるが、面倒だったので、小さなころからそうしているようにイタチの陰に隠れた。
 そうして嘆息をする。
 こんなことのために、ヤマトを締め上げたわけでも、町内早朝掃除の母の代役を申し出たわけでもない。
 一族やご近所さんのために、断られたらどうしようと思いながら、「つきあってほしいことがあるんだ」とイタチに言ったわけでもない。
 などと考えていると、イタチに名を呼ばれた。
「サスケ」
 気が付くと、どうやら辺りには二人だけが残されたらしい。
「なんだよ」
 くしゃりと潰したお茶のパックをくずかごに投げ入れる。
 だいたいこの兄も兄だ。
 おれには今度だと言い続けたというのに、おれ以外のことならすぐさま了承するなんて、なんだか腹立たしい。
「なんだ、えらく不機嫌だな」
 イタチはサスケの額をいつものように笑って小突いた。
「お前がつきあってほしいと言うから、つきあってやったというのに」
「…礼でも言えばいいのかよ」
「いいや。だが、次はおれにつきあえ」
 イタチがお茶のパックをくずかごに投げる。それはサスケが先に投げ入れたパックにとんっと当たった。
 きっと、わざとだ。
「兄さんに?」
「そうだ」
 イタチの腕がサスケに伸びる。
 一瞬のことにびくりと体を固くすると、その思わず窄めた肩ごと抱かれるようにして、イタチに背を押された。
「…なんだよ」
 すぐ傍のイタチを見上げる。目が合った。微笑まれる。
「おれにつきあいたいだろう、サスケ」
 言い返す言葉が見つからない。



「サスケくん」
 木の葉の往来で呼び止められ、サスケはサクラを振り返った。
 「よお」と言う声は、何処となく覇気がない。吐き気はあるが、やっぱり覇気はない。
「どうしたの、サスケくん。どこか悪いの?」
「ちょっとな…」
「ふうん。昨日は元気そうだったのにね」
 サクラは首をかしげた。サスケもかしげる。
「昨日…?」
 昨日は、あれからイタチと出かけたため、サクラたちとは会っていない。
 その謎はすぐにサクラが解決をした。
「うん。昨日、サスケくん、イタチさんとお団子を食べに来てたでしょ」
 イタチが木の葉の街を昼間に歩いているのはめずらしい。それも弟を連れてなどはめったにない。
「目立ってたよ、イタチさんとサスケくん」
 なるほど、昨日入った数々の甘味処で、周りがざわついたのは、男ふたりが団子を食べに来たからというだけではなかったようだ。
「でも、サスケくんて、甘党じゃなかったよね?」
「…そうだな…そうだったんだよな…」
 そう答えるサスケの声には覇気がない。吐き気はあるが、覇気がない。ていうかすごく気持ち悪い。
「イタチが団子を好きすぎて辛い!」
 ナルトたちにサスケがそう相談を持ちかける日も近い。



お題配布元:ロメア様

back | next | top