第8難 おまけ



 誰もが家路を急ぐ夕焼けの頃、大通りに面した木ノ葉コンビニエンスストアの前に憮然と佇むうちはサスケの姿があった。
 どうやら任務の帰りらしい。中忍の衣装を纏っている。
 行き交う里の娘たちが時折彼に秋波を送っているが、彼は気にすら留めていないようだった。
 あるいはそういうことにそもそも興味がないのかもしれない。娘たちに気付いているかどうかも怪しい。
 彼が気にしていたのは、唯コンビニエンスストアの扉だった。
 先程からそれが開閉する度にちらりと視線を遣っては、意中の人ではなかったのか、また斜め前の地面に戻すを繰り返している。
 彼がそこで誰かを待ち始めて何度目になるか、また扉が開いた。
 サスケの背が壁から離れる。
 店から出てきたのは店のビニル袋を下げた彼の兄だった。彼も本部帰りなのだろうが、さすがに暗部の武装は解いていた。
「待たせたな」
「…べつに」
 先ほどまで扉が開閉する度に気にかけていた者とは思えないほどサスケは淡泊に返事をする。
 きっと年頃も手伝って天邪鬼なのだろう。
 二人は連れ立って雑踏の中を歩き始めた。
 その道々、イタチの提げたビニル袋をサスケは目で示した。 
「なあ兄さん」
「うん?」
「いいのかよ」
「何がだ?」
「また母さんに夕飯前に間食するなって言われるぜ」
「ああ、これか」
 イタチはビニル袋から買ったばかりでまだ熱い肉まんを取り出した。
「半分ずつくらいなら平気だろう」
 そのまま包み紙を剥いて、サスケの口元へ肉まんを持っていく。
 サスケはその白いふっくらとした膨らみに誘われたらしい。ふうふうと二・三度冷ましてからかぶりついた。
「でも、兄さん」
 一口目を飲み込み、同じく肉まんを食べる兄を見上げる。
 口に含んだばかりの兄は目だけで先を促した。
「アンタ、肉は得意じゃないだろ」
 言うと、イタチは二口目をサスケに差し出した。
 こくんとその喉が小さく上下する。
「半分くらいなら問題ない」
 彼の兄は何かにつけて弟を優先してしまいがちの男だ。きっと勝手にサスケの腹具合と相談したのだろう。
 それを弟もきちんとわかっている。
「…次はあんまんにしようぜ」
 そう呟いて以来、肉まんを食べるのに託けて黙ってしまった弟にイタチはそっと目を細めた。


「そんなことをしているから弟を盾に取られるのだ、イタチよ…」
 木ノ葉コンビニエンスストアの柱の陰、志村ダンゾウはピザまんにかぶりついた。