第6難



 自身の体温で温もっていた布団に急にひんやりとした空気が流れ込むのを感じ、サスケは目を覚ました。
「兄さん…?」
 薄っすらと開いた目に兄の姿が映る。
 サスケの布団の片端を僅かに持ち上げていた彼は「起こしたか」と言って、それからサスケの隣に横になった。
「兄さん…冷たい…」
「ああ、今帰ってきたばかりだからな」
 寝起きの思うように動かない体をぐいと引き寄せられ、抱き込まれる。
 いつもは温かい兄の腕の中は今日ばかりは冷たかった。
 挟まれてしまった両脚からも兄の体の冷たさが伝わってくる。
「今…何時…?」
 サスケは兄の腕の中で身じろぎをしながら枕元に手を伸ばす。
 だがそれも途中で取られて、また布団の中にしまわれてしまった。
「朝の五時過ぎだ。起きるにはまだ少し早い」
「そうだけど…打ち合わせが…」
 今日は任務の打ち合わせが午前中入っている。
 このまま二度寝をしてしまったら起きられないかもしれない。
 兄の言う通り少し早いかもしれないが、起きてしまおう。
 サスケはそう決めて体を起こそうとした。
 が、
「サスケ」
 と、不機嫌にイタチに止められる。
 彼は頑なにサスケを離そうとしない。
 細身の兄は外見に反して力が強い。サスケが少々腕の中で暴れようともびくともしないのだ。
「なんだよ」
「おれと寝ろ」
「…アンタ、ただ寒いだけだろう」
「そういえば帰って来る途中、雪が降り始めていた」
 そんなことを呟きながら、イタチはもう目を閉じている。
 声もどこかいつもの冷淡さがするりと抜けて眠たげだ。
 夜を徹した任務で疲れているのだろうか。それともこの寒さで体が冷えてしまって喋るのさえ億劫なのだろうか。
 サスケは先ほどイタチに取られた手で布団と毛布を引き上げた。
 それから少し迷ってイタチの方へ寄る。
「サスケ…?」
「もう少しだけアンタと寝てやるよ」
「いくつになっても可愛いな、お前は」
 兄の薄い唇がもう一度閉じた瞼に触れたような気がした。
 けれど、それを確かめる前にイタチはもう眠りの中だ。
「…くそが」
 サスケはそれが昔からの癖なのか、兄の胸に一度額をすりりと摺り寄せて、少し赤くなった頬を隠すように兄の腕の中深くに潜り込んだ。


「サスケ、サスケ」
「ん……」
「お前、任務が、とか言っていなかったか」
「んん…」
「もう十時前だが、時間は大丈夫なのか?」
「!?」


「というわけで遅刻をした。悪かったと思っている。だが後悔はしていない。イタチもよく眠れたと言っていたしな」
「いいよいいよ。おれも今来たとこだしね。さ、打ち合わせしよっか、な、ナルト、サクラ」
「ちょっと待てぇっ!全然よくねーってばよ!!」
「そうよ!カカシ先生は今来たところかもしれないけど、私たちはこの雪の中、二時間も待ってたんですからね!!」
 この冬一番の大寒波が木ノ葉の里を襲った日のことだった。