アラン・ゲイブリエル×エンジェル

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  butterfly  


 雨伝う窓は凍えている。
 何処か遠くの異国の街とは違って、この寂れた廃墟の街には雨が降る。
 雨の跡を指先で辿れば、冷たい。
 ひらりと蝶が舞う。
 窓を隔てた指先に、ひらりひらり。
 きっとこの蝶はこの指に留まりたいのねとエンジェルの眸は物憂げな灰色の空。
 エンジェルは云った。
「アナタ、死ぬわよ」
 けれど声は硝子に跳ね返り、蝶の羽根はゆるりと閉じる。
 あとは落ちるだけ。



 傘も差さずに雨の中。
 ふと見上げれば、ひらりひらりと雨に舞い落ちる影。
 男はシルクハットを裏返し、ドレスの裾を翻す蝶を招き入れた。
 指先は雨の跡を辿るようで、蝶の後を追うように。
「…いやだわ」
 エンジェルは眠るように眸を伏せる。
 指先が窓から離れる。
「わたし、どうしてあんなこと知っているのかしら」
 指先はまだ冷たい。



 振り返ればアラン。
 奇術師のように胸の前に持った逆さまのシルクハット。
 蝶が羽根を広げて飛び立つ。
 ひらりひらり。
「メモリーエラーでも?エンジェル」
 アランのくちびるが笑み歪む。
 エンジェルの指先には蝶。
「わたしのことがそんなにも気に入らないのね、アラン」
 羽根が閉じる。
 エンジェルの両手も閉じる。
「エラー修正は可能だわ」
 ふるりと震えて蝶は、
「とてもいやなことに、貴方にも可能なの」
 ゆるりとあるべき姿へと帰り逝く。
 アランは雨伝う窓に手を付いてエンジェルを見下ろす。
「次に起こり得ることは?」
 エンジェルのくちびるが女の微笑を作る。
「貴方がしたいことよ、アラン」
 アランはそのくちびるを引き寄せた。
「では修正は必要ないな」
 手が解け、蝶の影が床へと落ちる。

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