Abuto*Kamui




甘味ハート



 これでも短くはない付き合いはしている、

 (が、どうもまだまだ読み切らせてはくれないようだ)、阿伏兎は宙を仰いだ。

 隙を見せれば寄せられる神威の唇を避けたつもりだったが、どうやらこいつは気が逸っている、

 神威は喉に迷いなく噛み付いて来た。

 (おいおい、そのまま食いちぎるのだけはかんべんしてくれよ)

 「団長」

 阿伏兎は神威のおでこをぐぐっと押した。

 素直に顔を引いた神威は、だがベッドに放り出した阿伏兎の脚の上を我がもの顔で占拠している。

 (こんくらいじゃ諦めねえよな)

 「阿伏兎」と神威が阿伏兎を引き戻すように呼んだ。

 阿伏兎は「あん?」と投げやりに応えてやる。

 神威はにこりと笑って見せた。

 「さてここでお前の好きな選択だ。

 俺とこのまま一発やるか、俺をてきとうにどこかの星、強いやつがいる星がいいな、に降ろすか」

 「どっちもごめんこうむるね。

 アンタの相手なんかしちゃ傷の治りが遅くなる。が、殲滅命令が出てる星もない」

 すると神威は唇を尖らせて「ぶー」と言った。けらけらと笑う。

 「正解はお前は今から俺と三発はするんだよ。え?サギだって?たかがクイズじゃないか。怒るなよ。

 ほら、しようよ阿伏兎」

 神威は阿伏兎の上で二度三度腰を揺すって見せた。

 なので本当に仕方なく、一応はその腰に残った右腕を回し、(ま、別に要らんだろうが)、支えてやる。

 「阿伏兎はいいよ」

 今度は、やはり仕方なく、寄せられた唇に大人しく吸わせてやる。

 「ん?」

 「お前は散々俺の妹とやれたからいいじゃないか」

 「あのなァ。誤解を招くような言い方やめてもらおうか」

 「俺は、あれっぽっちじゃ足りないんだよ、阿伏兎」

 そう本当に困った顔で言うので阿伏兎も弱った。

 (つくづくこいつには甘いね、俺も)

 左腕をくれてやるくらいには甘い。

 腰をぐっと引き寄せた。

 阿伏兎の情欲を引きずり出そうとすり合わされた唇に噛み付き返す。

 元来好戦的な夜兎であるから、すぐに舌を吸い合い、求め合うことにのめり込んだ。

 滾り始める血をいくらかは律せる阿伏兎ですら、(まずったかな)、と思うくらいなのだから、

 若い夜兎の神威は舌も肌も体も熱かった。

 「阿伏兎」

 神威の手が阿伏兎の髪に差し入れられる。

 (ご奉仕しろってか)

 阿伏兎は神威の耳、その裏、衣服を剥ぎ取って首筋、胸に接吻けてやった。

 そうしてそのままなし崩し的に神威が阿伏兎に跨がり体を繋ぐ。

 あ、あ、あ、と気持ち良さ気に声を上げ、もっとほしいと腰をぐっぐっと貪欲に揺らす神威は、

 本能が満たされることに本当に素直だ。

 そういう神威だからこそ、阿伏兎は神威が足りないというものを埋めてやりたくなる。

 だが埋めてやれないからこそ、こうしてあやして甘やかしている。

 ふと、神威の汗ばんだ頬にその髪が張り付いていることに気がついた。

 左手で払ってやろうかと手を伸ばしかけ、

 (ああ、そうか。もうこっちでは何もしてやれないのか)、

 今更失ったことに思い至る。

 「ん?どしたの、阿伏兎?苦しいの?もうイきそうなの?早いなあ」

 覗き込んできた神威に「ちげーよ」と言って阿伏兎は神威をベッドに倒した。

 そうすることで空いた右手の甲を神威の頬にあてる。髪を払ってやった。

 「団長のご命令とあれば、そうかんたんには、いかねーよ」

 夜兎らしく戦場こそが引き際だったというのに、

 こうして体も心も右手も神威が「困る」とそのたった一言を言うから生き残っている。






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