第七師団 Log




土ではないものに蒔く種は


 「阿伏兎はさ、結婚しないの?」

 「それをこんなときに聞くか、普通よォ」

 「こんなときだからこそ、思いついたんだよ。で、どーなの」

 「所帯なんて持っちまったら、この稼業は続けられねーだろ」

 「じゃあ結婚しなくてもいいから、とりあえず子供を作って来てよ」

 「そんな簡単に、作れるが、作るもんじゃねーだろ」

 「残念だなあ」

 「あのよ、団長」

 「んん?」

 「やりたくねーならもうやめるけど、もうちっと集中してくれてもいいだろ」

 「集中してるよ。阿伏兎のこれについて、考えてたんじゃないか」

 神威がわざときゅっと締める。

 「阿伏兎にはもう期待できないし、それなら阿伏兎に強い女でもあてがって、阿伏兎の子を生ませるんだ。

 なんなら俺が引き取って鍛えてやってもいいよ。きっと強くなる。わくわくするじゃないか」

 「やめてくれ。アンタと自分のガキが殺し合うところなんざ、見たくねえ」

 「残念」

 「団長」

 「はいはい、集中しろって言いたいんだろ。でもさっきも言ったよ、おれは阿伏兎のこと考えてるって」

 やがて神威の白い腹に阿伏兎の白いものが澱を作る。神威はそれを指で掬ってぺろりと舐めた。

 「阿伏兎の、もったいないだろ」




厭戦思考


 「阿伏兎。お前さ」

 と神威がなんともないように呼びかけてきたので、阿伏兎もなにかの片手間に短く「あ?」と応えた。

 「ほんとのところ、夜兎であることが好きじゃないんだろう」

 言われて手を止める。だがまたすぐに片手間になった。

 「アンタのことは好きだ」

 「うん。そうだろうね。それは知ってる」

 さ、戦争だよ。神威はひょいと腰を上げる。

 「へえへえ、お供するとしますか」

 そうは言っても阿伏兎は最近面倒くさいと感じているし、そうは感じても神威には従うことにしている。




弔い



 地球を離れて幾日かが過ぎたころ、もうそちらしか残っていない右腕の右手で、めこ、と頭を押さえられた。

 「なにすんだよ、阿伏兎」

 神威が言うと、阿伏兎は「ん?」とすっ呆ける。

 それから、「あれだ」「弔いだ」と阿伏兎は言った。




ゴーイングメリー号に乗って



 「ゴーイングメリー号。っていうのは、あまりにもだと思うんだ」

 お前はどう思う。とそう問われているのだろうと判断した阿伏兎は、だが先が見えない。

 それに神威のそういった無駄話の類よりも、

 阿伏兎には、(またか)、少々壊しすぎた星のことが気がかりだった。

 「お前もおれも結構年齢の割には高給取りだろ」

 「その高給取りの職場にいつまでいられるかが問題だ」

 上への申し開きを少し考え始め、だが、(めんどくせえ)、阿伏兎は神威の相手をしてやることにした。

 「阿伏兎。貯金は?」

 「あのよ、団長」

 「なに?」

 「先が見えねえんだけど」

 「だろうね。だから、こうして考えてやってるんじゃないか」

 「なにを」

 「阿伏兎。おれやお前が春雨から切られても大丈夫だよ。船をふたりで買って、海賊をまたしたらいい」

 阿伏兎はバカバカしくなって笑った。

 「そうなりゃ、団長じゃなくて、アンタは船長になるな」

 この若い夜兎は、春雨だとか、第七師団だとか、そういう括りが阿伏兎に対して全くない。

 (どこまでもついてくる、なんて思われちまってるわけだ)

 「阿伏兎はコックね。足で攻撃するから、ちょうどいい」

 そう言う神威が機嫌がいいので、阿伏兎はなにもかも仕方ねえななんて思う。




ほんとうは乱暴なところを見せて


 「後ろからは嫌いなんじゃねーのか」

 などと気遣いのように言う阿伏兎は、けれど、(もうやめられないくせに)、神威が思う通りだった。

 阿伏兎程度の重さに崩れるような手でも膝でもなかったが、乗りかかられるとそれなりに重い。

 前の阿伏兎はなるべく体を離して繋がろうとしていたが、

 左腕をなくしたこのごろの阿伏兎は神威をベッドに沈めることで押さえつけようとしている。

 ん?とか答えを催促する割には、口の中にまで指を入れてぐちゅぐちゅと掻き回して来る。

 神威はそれを何度かちゅ、ちゅ、と吸ってから舌で押し出した。

 「嫌いだけど、後ろからするときの阿伏兎は乱暴で好きだよ」

 今はもうあまり見せなくなった嗜虐さが見え隠れしていてすごく興奮すると神威は囁いた。

 阿伏兎はまた少し困った顔をしている。





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