第七師団 Log




昼食時の従順


 「昼飯時だ」

 と神威が言うと、後ろをついて歩いていた阿伏兎はあまり良い反応を返さない。

 補給に降り立った星の街は見渡す限り食材も店も充実している。

 それにも関わらず阿伏兎は「どこか適当な店に入ろう」と言う神威に生返事をするばかり。

 「ん?どしたの?おなかでも痛いの?」

 神威が振り返ると、傘を差した阿伏兎はうんざりとした顔をしていた。

 「アンタと昼飯を食うと、ろくなものが食えない」

 賑わう街を抜け、寂れた定食屋の扉に神威が手をかける。

 「おれ、ちゃらついた料理はきらいなんだよ。

 あ、おじさん、白米を櫃に大盛りふたつ、梅干を瓶にいっぱい、あと渋いほうじ茶をやかんに淹れてね」

 あーあー…とそれでも神威のあとについてきた阿伏兎のため息が定食屋の宙に吐き出される。




傭兵よ、紳士たれ


 「戦争に戦争を重ねて、争いに戦いに明け暮れて、生きて死ぬのが夜兎なんだ。

 阿伏兎。お前、あんまりいろんなものに情けをかけるのはやめときなよ。

 夜兎は、傭兵屋の流れ者で、恐れられ嫌われて、ひとりぼっちでいるくらいがちょうどいい。

 戦場で生きる者の、それが気遣いってやつじゃないか」




出来レース



 「オイ、団長。どうして手ぶらなんだ」

 砂塵の向こうから姿をひょっこり見せた神威に阿伏兎は眉根を寄せた。

 神威が「ん?」とすっとぼけようとする。それが分かったので追い討ちをかけた。

 「何回も言っただろ、ぼこるのはかまわんが、生かして持って帰って来いってよ」

 「あー、そういえばそんなことも言ってたね」

 忘れてたよ、と結局神威がすっとぼけるので、阿伏兎は諦めた。

 突き詰めるほどの根気があるわけでもない。

 「で?どーしたんですかね、奴を」

 「崖から捨てちゃった」

 「そりゃもう回収不能だな」

 春雨は戦争を手段にする営利組織だと阿伏兎は理解している。

 だが、この団長は春雨の営利を手段に戦争をしているのだと阿伏兎は気がついている。

 「どうにかしといてね、阿伏兎」

 神威がそう言うので、阿伏兎は顔をしかめた。

 「そこは、せめて、どうしよう阿伏兎、だろ」

 「どうにかしといてね」では可愛げがない。

 そう思ったことを見透かされたのか、神威が阿伏兎の肩を叩いてすれ違う。

 「結局どうにかするお前の負けだよ」

 はじめから出来レースだ。阿伏兎は思った。




ぎゅう、ぎゅう



 「あのよ、動けねーんだけど」

 腰に回された神威の両脚が阿伏兎をぎゅっと締めている。

 神威は今本当に気がついたらしい。「阿伏兎がさ、」と脚を緩めた。

 「阿伏兎がさ、おれの一番奥に突っ込んだまま出て行かないから、ずっとそうしていたいのかと思った」

 阿伏兎は一度引いて、また奥へいく。

 「一番奥に突っ込んだ瞬間に、締めたのはアンタだろ」

 またぎゅうと絞まる裸の両脚に、(気持ちいいことには素直だ)、

 阿伏兎は「だから、動けねーんだって」とりあえず神威の足を肩に掛ける。




とてもそういう気分です


 神威から仕掛けたことだというのに、阿伏兎は珍しく逃げた。

 神威の口に手のひらでストップをかける。

 それくらいで機嫌を損ねる神威ではないが、珍しいなくらいには思ったので、

 (だいたいいつもいやそうな顔はするけどね)、首をかしげた。

 「気分じゃない?」

 「いや、そうじゃなくて」

 阿伏兎はすぐ真横の扉を閉める。艦内だ。通路にはいつだれが通るとも限らない。

 「少しくらいは気にしろ」

 そう言って今度は阿伏兎から神威を壁に押し付けるものだから、

 「また珍しいや」

 神威が言う。

 阿伏兎はキスをしてやろうと顔を傾けながら、

 「気分じゃないわけじゃない、って言っただろう」

 ふと笑いを漏らした。





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