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Gemini*Scorpius*Aquarius


 「なんだ、まだ用意してないのか」

 俺はカノンの姿を見て呆れた。彼は長椅子に腰掛け、テレビを鑑賞中。

 背後ではカミュも呆れて溜息を吐いていた。

 「もう待ち合わせの時間だぞ」

 今日は三人で劇を見に行く約束の日だというのに。

 カノンは不思議そうに部屋の置き時計を見やり、やはり不思議そうに首を傾げた。

 「すまん。ミロのことだから、どうせ遅れてくると思って」

 そう云って彼は用意にと立ち上がる。

 「俺だからとはどういうことだ」

 コートを取りに行ったのであろうカノンの背に云うと、今度は俺の背にカミュが、

 「いや。お前は私が迎えに行かねば確実に遅れていた」

 などとわざわざ云わなくてもいいことを云ってくる。

 カノンは少し振り返って、ほらなと笑って見せた。

 が、俺はふふん笑ってやった。カノンの向かいからサガがやって来たのだ。

 「お前は人を待たせて何を笑っているのだ」と怒られている。ざまあみろ。

 カノンは咄嗟に言い訳をしようとしたのだろう、しかしサガはコートを差し出した。

 「ほら、さっさと用意しろ」

 「ん」

 ………………………………。

 ………………………………。

 「なあ、カミュよ」

 「なんだ?」

 「俺はまたしても、すごいものを目撃している気分なのだが…」

 そう、サガはカノンにコートを着せてやり、

 カノンが何も云わずともベルトの捻れをなおしてやっているではないか。

 おまけにカノンはコートのことはサガに任せて、自身は手袋をはめている。

 「そうか?私もよく氷河やアイザックが小さい頃はああして着せてやったものだが」

 「それは小さい頃の話だろう。あいつらは28歳だぞ。兄弟だぞ」

 「ミロ、いったい何を慌てているのだ。つまりあいつらの仲が良いということだろう」

 「いや、それはそうだが。それに間違いはないのだが」

 最後にカノンはサガにおかしいところはないかと問うて、こちらを振り向いた。

 「遅くなってすまん。では行こうか」

 「ああ、そうだな」

 続くカミュ。そのカミュが取り残された俺を振り返り、「ほら、行くぞ、ミロ」

 俺はサガの見送りを背に二人を追った。




Pisces*Andromeda


 「時にアンドロメダよ」

 「なんですか」

 「私は先日女神より、果てしなく深く広い君とのどうしようもない溝を埋めるために、

 食事でも一緒にとれば良いのではないかと仰せ遣ったので、

 私は全くこれっぽっちも望まないが、君がどうしてもと云うならば一緒に食事でもどうだね」

 「そんな云われ方して僕が、それは良いですね、ぜひ連れて行ってください、とでも云うと思いますか」

 「安心したまえ、年功序列と云うことで君の食事代は私が払ってやろう」

 「だから、そういう意味ではなくてですね、

 そんなこれ以上なく気まずい雰囲気トゲトゲの誘い方がありますか」

 「ふむ。ということは、君は私の誘い方が気に入らないとでも」

 「はい、全くこれっぽっちも、貴方が僕を気に入らないくらいに気に入りません」

 「ほう。それは相当気に入らないというか、大嫌いということだな」

 「はい、まあそういうことですね」

 「よし、ではアンドロメダ、手を」

 「…はい?…って何勝手に触ってるんですか」

 「煩いね、君は。少し黙りたまえ」

 さあ、その白い手を私めに。やわらかに接吻けを落としましょう。

 「私と食事でもいかがかな、アンドロメダ」

 「…喜んで」




Gold Saint



 明日の君の平和を望みながら、僕は今日この手に剣を取る。




Cancer*Capricornus*Draco



 「つーか、シュラ。なんでこのガキまでいるんだよ」

 「偶々聖域に来ていたのだ。食事に誘って何が悪い」

 「悪いというか、なんで俺がこいつにまで夕飯作ってやらにゃならんのだ」

 「お前の料理がぜひ食いたいそうだ。なあ紫龍」

 「ああ。シュラからお前の料理だけは絶品と聞いた」

 「14のガキにお前呼ばわりされたくないわ!しかもだけってなんだ」

 「本当のことだろう、デスマスク」

 「うるせえぞ、シュラ。…はあ、まあ、そうだな、よし、料金払うなら食わせてやってもいいぜ?」

 「解った。いくらだ?」

 「…紫龍。お前その真面目な性格なんとかしろよ…」

 「そして紫龍の性格を知りつつ、意地の悪いことを云うな、デスマスク」

 「へえへえ。ったく、せめて皿洗いはしていけよ!」

 「ああ。それはいつもしているから任せておけ」

 「…お前14にして、既に尻に引かれているのか、可哀相にな…」




Scorpius*Aquarius


 ミロが久しぶりにカミュを見かけたのは、教皇宮図書館でのこと。

 「よお、久しぶりだな、カミュ」

 近付くと、カミュは漸く熱心に立ち読みしていた本から顔を上げた。

 ミロがひょいと題名を覗くと、「はじめてレシピ」とあった。一瞬こんな本も取り揃えているのかと驚く。

 「いつシベリアからこっちへ?」

 「ああ、昨日の遅くだ。明日にはまた帰る」

 「ふぅん。弟子を持つというのも大変なのだな」

 ふたりはまだ二十歳にもならない。

 「技の訓練自体は良いのだが、生活面が、な」とカミュはまた一冊棚から本を抜き取る。

 開けばまた料理の本。ミロは首を傾げた。

 「そういえば、お前って料理などできたのか?」

 「いや。弟子を持ってから、はじめた。私が作らねば餓死するからな」

 「…たいへんだな」

 「なに。氷河もアイザックも良い子だ」

 そこでカミュは漸く口許を緩めて、笑って見せた。




Pisces*Andromeda


 ショートケーキ二切れを箱に詰め、扉をノック。ノック・ノック・ノックノック。

 そうして漸く開いた扉の向こうには、長い髪に手を差し入れ後頭部を掻く男。

 「…アンドロメダ…何の用だ」

 アフロディーテは寝起きらしく、上半身には何も纏ってはいなかった。

 「ええ、実は、

 沙織さんから0.3mmのシャープペンシルに0.5mmの芯を入れるような僕たちの関係改善を目指して、

 貴方が人間の肉体の絶頂期を過ぎ、一つ老けた日を心の底から喜びお祝いするように云われたんです。

 そんなわけでお誕生日おめでとう、アフロディーテ!これケーキです」

 ケーキをぎゅうと押し付けられてアフロディーテ、「私は甘いものは嫌いだ」

 「じゃあ僕が2個食べます」

 そんなわけで部屋にお邪魔する。

 箱を開けてケーキを出せば、アフロディーテは紅茶を一人分だけ用意して瞬の向かいに腰掛けた。

 その紅茶に口を付けるアフロディーテに、

 瞬はショートケーキの上に乗っかった木苺をフォークで刺して差し出した。

 「はい、どーぞ。甘くないですよ、貴方のようにね」

 それをぱっくり。

 「…ああ、一見甘そうなのに甘くないな、君のように」

 ふたりは見つめ合って笑った。




Pisces


 転んだ子供に一時の哀れみで駆け寄ってはいけない。

 血を流す痛みを学ばせ、起き上がる力を獲得させ、転倒に至った経緯に想いを馳せさせる事こそ、

 真なる愛情というものではないかね?

 それは時に冷酷と云われることもあるけれど。

 ただひとつ云っておこう、

 転んだ子供に駆け寄ったあなたは、血を流す痛みを知るやさしい人だということを。




Pisces


 さあ飯だ飯だと喰い散らかす。さあ酒だ酒だと飲み明かす。皿の半分は食べ残し。

 新たな料理に手を出して、三分の一も食えば飽きてくる。

 おっと飲み残しはもったいない。手間隙金をかけてやっと手に入れた逸品ワイン。

 美味いかどうかなんてわかりゃしない。

 蟹座の男は差し向かいで、もったいない飲み方だと笑った。

 おやおや、これが贅沢とかいうものではないのかね?

 部屋の中はガラクタだらけ。この間買った使い捨て新製品がもうゴミだ。

 懲りずにあっちの新製品、こっちの新製品。エコロジーなんてくそくらえ。

 リサイクルなんて何処かの誰かがやればいいのさ。

 山羊座の男は部屋を見渡して、何も云わず溜息をついた

 しかしだね、君、これが文明とかいうやつではないのかね?

 朝が来れば寝坊しろ、衣食住には困らない。眠たくなければ起きていろ、深夜チャンネルは垂れ流し。

 何処かの誰かが扉を開けっぱなしにして空き巣に入られたと嘆いてる。

 何処かの誰かがミサイルが降らない空の下、せかいへいわを声高に叫んでる。

 わたしはわたし、嘆きも叫びも知らぬ存ぜぬ、ここは見晴らしの良い雲の上。

 「嗚呼、わたしは平和の奴隷なのだ」

 接吻けは女神の素足に。




Cancer*Capricornus*Pisces


 正義を口にしないのが、俺達なりの正義なのさ。




Gemini*Sagittarius


 「なあアイオロス。私はお前が羨ましい。それはお前に翼があることではない。

 お前が立つ場所がとてもきれいだからなのだ。ほら見よ、何ひとつ落ちておらぬ。

 だが私が立つ場所には落ちているのだよ、神の影が。

 いやこれはあれを捨ててしまいたいという私の影なのかもしれぬな」





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