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Gemini*Sagittarius


 「アイオロス、アイオロス」

 「んーなんだー?」

 「俺、腹減った」

 「私はサガではないので、んなこと云っても自動で飯は出て来んぞ。自分で作れ」

 「……」

 仕方なくカノン、ジュージューお料理。

 「出来た出来た」

 「お、うまそうだな。いただきます」

 「なんでお前が食うのだ!」

 「私も腹が減ったからだ」

 ぱくぱく。

 「あー!」

 がっくりカノン。珍しくサガを恋しく思ってしまったり。

 「一人でバカンス行きやがって…うっうっうっ」

 「泣くなー、カノン。私がいるじゃないか」

 「お前がいるから飯が食えないのだ、バカー」




Aries*Kiki


 「貴鬼、貴鬼、お茶にしましょう。ケーキを買ってきましたよ」

 「わあ!ムウさまがケーキ買って来てくれるなんて、珍しいですね!」

 「クリスマス翌日でクリスマスケーキが特価だったのです」




Capricornus*Pisces



 ぴろぴろと携帯電話が鳴ったので「はい?」と出れば、アフロディーテ。

 「シュラ、君、今暇か?」と云う。

 忙しいと答えたら、では今すぐ来てくれと云われた。話が噛み合わない。昔から。

 そういうわけで彼の宮を訪ねると、彼は半纏を肩に掛け、こたつに座っていた。

 「ああシュラ、よく来てくれた」

 「何の用だ」

 「うむ。すまんがオーブントースターから餅を取って来てくれんか?さっき焼き上がった音がしたのでな」

 「そんなことのために俺を呼んだのか」

 「いや、近所だから」

 お前と餅の方がご近所だろ!

 「しかしカミュに頼むと煩そうだからな。子供は風の子などと言い出しそうだ」

 「俺が怒らないとでも思っているのか」

 「とりあえず怒るとは思っているが、餅をとってきてくれるとも思っている」

 アフロディーテは悪びれることなく笑った。




Gemini*Scorpius*Aquarius



 こたつにはみかんを剥くサガ、ミロ、カミュ。そしてぐーすかお昼寝中カノン。

 三人でカノンにかまわずあれやこれやと話していたが、午後四時。

 「カノン、カノン」

 サガはすぴすぴ眠るカノンの身体を揺すった。

 「もう四時だぞ。五時にデスマスクたちと待ち合わせなのではなかったのか?」 

 「むにゃ…」

 「カノン」

 サガははぁと溜息。ミロとカミュも苦笑もの。サガはもう一度ぴしぴしと頬を叩く。

 「カノン、起きろ」

 「ん…いまなんぷん…」

 「四時三分だ」

 「じゃぁななふんごに…もっかぃぉこせ…じゅっぷんからよぅぃ…zzz」

 そんなぐだぐだ語に「ああ、解かった」とサガは頷くが、ミロとカミュは不思議顔。

 「今ので解かったのか?俺には全く何云っているか解からんかったぞ」

 「私にも解からなかったな」

 サガはカノンの頭をなでなで。

 「慣れだな」

 ミロとカミュは即おうちに帰りたくなった。




Aries*Leo


 「おい、ムウよ。ライブラの聖衣を背負って何処へ行くのだ?

 まさかまた冥界や海界に不穏な動きが!?ならば俺も行くぞ!」

 「いえ、来なくていいですから。ちょっと日本へ行ってくるだけですよ」

 「日本?」

 「ええ。杉の木を伐採しに。星をも砕くライブラの聖衣でなら、一瞬で丸刈りですよ、ふっふっふっ」

 「いや、おいおい!待て待て待て!そんな用途有りか!?」

 「有りです、うちの貴鬼が花粉症なんで、ティッシュ代がかさみましてねえ。というわけで行ってきます」

 「笑顔を残して行くな!待て待て待て!」




Gemini*Cancer*Scorpius


 カノンは自宅扉前にて非常に悩んでいた。

 「まずい」

 横に並ぶデスマスクとミロはほろ酔い顔。ついでに少し頭もほろ酔い気分。

 「大丈夫大丈夫、まだ朝の四時だ。サガもそんなに怒らんだろうよ」

 デスマスクが無責任にそう云えば、

 「そうそう、しかも考えてもみろ。朝の四時に起きているなんて早起きさんではないか!」

 ミロがうんうんと頷く。

 カノンは小声で怒鳴った

 「バカを云うな!俺は今夜は0時までには帰るとサガに云っていたのだぞ。

 それがお前たちが無理矢理引きとめるから…」

 「はあ?お前だってあの時はサガなんてどうでもいいとか抜かしていただろ」

 デスマスクの言葉にカノンは口を噤む。

 「…あの時は、酔っていたのだ…」

 だがその酔いは午前三時になって漸くさめた。現在午前四時。

 「うーむ、そんなに帰るのが嫌なら俺の家に泊まるか?」とミロが提案するが、

 「なんか余計に話がこじれそうな気がする」とカノン。

 「とにかく0時までに帰らなかったことはもう消せぬ事実。

 デスマスク、ミロ、今日まで世話になったな、ありがとう…俺はこれより死地に入る!」

 「…つーかカノン、お前まだ少し酔っているだろう」

 デスマスクがそのように呆れたときだった。双子家の扉が開く。

 「死地に入るなら入るでさっさと入って来い」

 「サガ…」

 カノンが呟くと、サガは仕方なさそうに手招きをした。

 「煩くて眠れやしない。ほら来い、私も朝の四時から酔っ払いに説教するほど暇ではない」

 「ん…ではな、デスマスク、ミロ。…サガ…水くれ、水」

 カノンはそのまま扉を潜り、双子家前は静けさを取り戻した。

 「…ミロ」

 「…なんだ?」

 「俺のところで飲み直すか?」

 「うむ、そうさせてもらおう」

 ふたりは連れ立って歩き始める。




Gemini*GoldSaint


 遅い!という彼らの意見は尤もだった。先に行こうか?という彼らの提案にも頷ける。

 他人の遅参には煩いくせに、自分が遅れるときには連絡ひとつ寄越さない自己チュウ人間。

 そんな苦笑いにもカノンは苦笑いで返した。

 連れ立って皆で久しぶりに食事にでも出掛けようと云ったのは誰だったか。

 待ち合わせの時刻になってもサガは未だ現れない。

 カノンはそれぞれに時間を潰す黄金聖闘士を振り返った。

 ***

 「皆は?」

 やって来たサガは辺りを見回して、ぽつんと立つカノンに問うた。

 カノンは肩をすくめる。

 「先に行ってもらった。お前、大・遅・刻だ」

 「そうか。それで?何故お前は残っているのだ?」

 問われて、困る。

 カノンはしばしの黙考の後、「身内だから、なんとなく」と答えた。

 「俺がお前を待つのが自然かなと思ったのだ」

 「そうか」

 「…不満か?」

 云うと、サガは笑った。「いいや」と首を振る。

 「私も誰かが待ってくれているなら、それは身内であるお前だろうなと思っていた」

 照れ隠しに「行くぞ!」とカノンはサガを促した。




Pisces*Andromeda


 「暇だ」

 アフロディーテは18世紀末のフランス製だというソファに無造作に寝転がった。

 その前では瞬が洗濯物を畳んでいる。

 「おい、アンドロメダよ」

 だが黙々と作業を続ける瞬。しかしアフロディーテも相手の都合は無視して問うた。

 「そのようなことを何故君がしている?

 ここは城戸邸だろう、君がそのようなことをせずとも良いのではないのか」

 「居候の身ですからね、僕は。これくらいは自分でしないと。

 貴方も身の回りのことくらい少しはご自分でしてはどうです?」

 「おやおや」

 アフロディーテはあふぅと欠伸をした。

 「私は君とは違って客人として招かれたのだよ?

 沙織嬢は客人に洗濯物を畳ませるようなお方なのかね?」

 「招かれたって…貴方はただ観光旅行に来ただけでしょう。暇潰しに」

 「その暇潰しも終わって私は暇だぞ、アンドロメダ」

 「そんなに暇が嫌なら手伝ってください」

 しかしアフロディーテはふんと鼻を鳴らして笑う。

 「勘違いしてもらっては困るね。私が暇を嫌うはずがない。私たち黄金聖闘士が忙しいなど物騒な話だ。

 私は平和を愛するアテナの聖闘士だぞ?故に私は暇と退屈をこの上なく尊んでいる。

 そういうわけで洗濯物を畳むのは君がやりたまえ、アンドロメダ」

 「…ほんといつか貴方とは決着を付けたい気分だよ」

 瞬が云うとアフロディーテは微笑んだ。

 「私闘が禁じられていることを知らぬ君ではなかろう?」




Gemini*Sagittarius


 双子がなにやら向かいの席でけらけらと笑い合っているのを眺めていたアイオロスは、

 感慨深そうに二人に云った。

 「お前たちは最近更に見分けがつかなくなってきたな」

 すると二人はぴたりと笑うのを止めてアイオロスをひたと見詰める。

 サガが口を開く。

 「アイオロスよ、お前はついに服装の違いを認識することも出来なくなってしまったのか?」

 「ついにってなんだ」

 アイオロスは「違う違う」と手を振った。

 「サガがカノンのように笑うようになったなあと思っただけだ」

 云われてサガは不機嫌に、「失礼だぞ、アイオロス」

 カノンも不機嫌にサガを睨む。

 「失礼なのはお前だろ!何故そこでサガに謝る、アイオロス!」




Gemini*GoldSaint


 「なあサガよ」

 とカノンは出掛けの兄の背をアテネ市観光パンフレットを捲りながら追った。

 「夜は空いているのだろう?この店に行ってみないか?もちろんサガの奢りでだ」

 サガはやや呆れる。

 「そこは普通お前の奢りだろう」

 「では俺が奢れば共に行ってくれるか?」

 しかしサガは扉を開けた。

 「折角だが今夜は忙しい。他の日にしてくれ。それにカノン」

 「なんだ?」

 「お前ももういつまでも兄と外に出かけるような歳ではなかろう?」

 それに反論しようとしたカノンであったが、一瞬の息詰まりの間にサガは出掛けてしまった。

 カノンはパンフレットを乱暴に閉じる。

 「折角誘ってやったというのに、あのような言い方はないだろう!」

 結局その日は一人で夕食を取った。

 ***

 それから幾日か経った日のこと、カノンは先日のやり取りを思い出しながらも資料を散らかし、

 それと睨めっこをしているサガに「なあ」と話掛けた。

 積まれているファイルが今にも崩れ落ちそうだったので、手に取り、揃えてやる。

 「今夜は黄金皆で集まって飲み会をする予定なのだが」

 「ふーん」

 気のない返事はきっとサガの意識が聖域の財源管理に向いているから。

 「それで、皆がお前にも来て欲しいと、誘っておいてくれと俺は頼まれたのだが」

 「ふむ」

 たぶんその頷きは資料の内容を理解したからなのだろう。

 サガは資料に何事かを走り書きしている。

 カノンは「おい」と目を細めた。

 「サガよ、行くのか、行かないのか、はっきり云え。そうでないと伝言役を頼まれた俺が困るではないか」

 サガは嘆息する。

 「少しは返事を待てぬのか?そう都合良く予定が空いているとは限らないだろう。

 今、今夜の予定を考えていたのだ」

 「…で?」

 「残念だが先約がある。

 お前から皆に謝ってもらうというのが嫌ならば、私が謝っておこう。誰が中心なんだ?」

 「アイオロス!」

 カノンはファイルを床に乱暴に置いた。折角揃えたファイルはまた崩れてしまった。

 「あいつは何を怒っているのだ」

 サガは漸く振り返り、崩れたファイルとカノンの背を見遣って首を傾げた。

 ***

 「絶対おかしい」

 カノンはウォッカグラスを握り締めた。

 アフロディーテは呆れる。

 「カノンよ。サガに少し相手にされないからといってうちのグラスを割らないでくれよ?

 それにどうして言いだしっぺのアイオロスの家でやらないのだ!」

 「それはあれだ。私の家が散らかっては嫌だからだな」

 アイオロスが笑った。

 他方シャカとカミュは黙々とウォッカを煽り、

 デスマスクとシュラは勝手にアフロディーテ秘蔵のイカを七輪で焼いている。

 「あああなんというメンバーが集まったんだ。まともなのがいないではないか!」

 アフロディーテは七輪を消火しながら自宅の未来を憂えた。

 しかしカミュは大人しく柿ピーをぽりぽり齧りながら、

 「そもそも黄金聖闘士ほどまともじゃない集団はいないと思う」

 「至言だな」

 シャカもアーモンドをぽりぽり齧りながら頷く。

 「だから私はサガを誘ってくれと云ったんだ」

 アフロディーテはやけくそ気味に日本酒をぐびぐびやりながら云った。

 「彼がいれば少なくともアイオロス以外はなんとかなる」

 「私は悪酔いなどせんぞ?」

 「悪酔いの振りをするから最低なんだ、あなたは」

 アフロディーテの言い分に、しかしシャカが異論を唱えた。

 「しかしだね、我々を大人しくさせようとする彼が一番手を付けれん存在となり得るのだよ?」

 「そのときはそこで兄恋しさに欝酒をしているカノンを犠牲にして逃げるさ」

 アフロディーテはフンと笑う。

 笑えないのはカノンだった。

 デスマスクが「よいこらしょ」とカノンの隣に座り、

 「おいおい、シードラゴンさんよ。どうしたんだ?」と問う。

 カノンは深いため息をついた。

 「サガの俺扱いが最近酷いのだ」

 「そりゃ昔からだろ」

 「否定はせん。

 しかし昔は俺の言動全てに対してあれやこれや指図をしたり、殴ったりしてきたのだが、

 今はあまりにも素っ気無いのだ…」

 「カノンよ、お前なにか基準を間違えてはいないか?」

 と思わずシュラがつっこむがカノンの顔色は冴えない。

 「俺が一緒に飯を食いに行かないかと誘っても断るし、この飲み会に誘っても来ないし、

 俺が弁当を作ってやろうかと云っても昼食は皆と取るからいいと云うし、

 折角バスタブを磨きこんだ日に限って疲れたからシャワーで済ますと云うのだ。

 疲れた日にこそ湯船に浸かり、ゆっくりと体をほぐすべきであろう!?

 俺が間違っているというのか?俺の何が間違っているというのだ!答えろ、デスマスク…!」

 「おいおいおい、カノン、お前、目が据わっているぞ!誰かこいつの保護者を呼べー!」

 デスマスクの叫びにシャカとカミュが顔を見合し、シュラが携帯電話を取り出す。短縮3番。

 だが電源は切られているらしいという女性のアナウンスが響くのみ。

 「…サガが出ない」

 シュラが呟くと、いよいよカノンが不機嫌オーラを増大させる。

 「そらみろ!サガは俺を迎えに来るのさえ拒んでいるのだ!」

 「まあまあサガとて何か用事があって電源を入れていないこともあろう」

 アフロディーテさえカノンを宥めに掛かる。

 しかしアイオロスが「あ」と思いついたように天井を見上げた。

 「そういえばここに来る前、サガは白銀聖闘士の魔鈴と出掛けて行ったところを見たぞ?

 魔鈴は帽子とサングラスで顔を隠していたが、あの赤髪は間違いない」

 「ふぅむ」

 カミュが頷く。

 「サガも漸く弟離れができたようだな」

 その向かいで、

 「サガのアホー!俺を13年前のように置いて行く気か!?」

 カノンがデスマスクを折りたたんでいる。

 「ぐぇぇ」

 「そらみろアイオロス!私の家が崩壊の危機ではないか!」

 怒るアフロディーテ。

 「私の家でなくて良かった」

 安堵するアイオロス。

 シュラは携帯電話を置き、シャカを見遣った。

 「とにかくなんとかサガに連絡を取らねばな。おい、シャカ」

 「うむ。任せたまえ。酒の場の平和のためならば」

 その後カノンが酔い潰れた頃、

 シャカの小宇宙電波を受け取ったサガが弟を引き取り、背負って帰って行った。

 
***

 翌日カノンは二日酔いになった。

 「ぐおおおお、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!」

 カウチの上でごろごろと胃を押さえて悶える。

 サガはそのようなカノンを放って休日だというのに今日も出掛けて行ってしまった。

 見舞いに来たと嘘を吐くアイオロスが「今日も魔鈴と出かけるサガを見たぞ」と云っていたことを思い出し、

 更に胸がむかつく。

 「ふん、俺がこんなにも苦しんでいるというのに女と出かけるとは、兄失格だ、おのれサガめサガめ」

 どんなに恨み言を呟いても、それでサガが帰って来るわけでもない。

 カノンが諦めて寝返りを打った、そのときだった。

 件のサガが帰って来た。

 柱時計を見遣ればまだ午後四時。

 女と出掛けたにしては早すぎるのではないか?と思いつつもカノンは寝転んだままサガを待つ。

 誰が迎えに行ってやるものか。

 「カノンよ。二日酔いの具合はどうだ?」

 姿を現したサガは不貞腐れ半分で寝転んだままのカノンの頬をしゃがんで撫でる。

 弟を放って出掛けた罪滅ぼしか何かか?とカノンはその手を払った。

 サガは首を傾げる。

 「カノン、どうした。何を怒っているのだ」

 「怒ってなんぞいない」

 その低い声と云ったら!

 「怒っているではないか」

 サガがもう一度手を伸ばしてくるので、カノンは起き上がることでその手を避けた。

 「で?サガよ、お前はさぞ楽しかったのだろうなあ」

 「まあ楽しかったというか、楽しくなかったわけではないというか」

 「…その発言は魔鈴に対して失礼というものだ」

 「魔鈴に?何故だ?」

 そう云ってまたサガが首を傾げるのでカノンの方が呆れてしまった。

 「サガよ、そのような態度を取っていては魔鈴や女には好かれぬぞ!」

 「何故私が魔鈴や女に好かれる態度を取らねばならんのだ」

 「何故って」 

 カノンは困った。そもそも女に好かれる態度をサガが取ってしまっては困るのはカノンではないか。

 カノンがそのように「うー…」と唸っていると、サガは少し考えた様子で、それから苦笑した。

 「カノンよ、お前は何か勘違いしているのではないか?」

 カノンは思わずサガをひたと見つめる。

 「勘違いだと?」

 「うむ。お前、私と魔鈴の仲を疑ってはいないか?」

 図星。だがカノンはあくまで平静を装った。

 「なななな何故俺がお前と魔鈴の仲を疑わねばならん?

 たとえお前が魔鈴とそのような仲だったとしても、

 やっと兄が身を固めたので自由になれたと手放しで喜んでやるわ!」

 「そうか?しかしな、カノンよ」

 サガは今にも吹き出しそうになりながら笑う。

 「魔鈴は16歳なのだぞ?いくらなんでもそれはいかんだろう?」

 「そっ…そういえば」

 カノンは云ってから、いやいや騙されんぞとばかりに昨日のことを含めて問うた。

 「では昨日と今日は何故魔鈴と出かけていた?

 それにここ最近はずっと俺の誘いを断っていたではないか。なのに魔鈴とは出掛けるのか?」

 「カノン、お前、最後に本音を吐露してしまっていることに気付いているか?」

 サガは「ほら」と横手に置いていたケーキ屋の箱を二人の間に掲げた。

 「なんだこれ」

 「ケーキだ」

 「そりゃあそうだろう。それにあんまり近づけるな。二日酔いなのだぞ、俺は。ケーキなど見たくもない」

 カノンはげんなり。しかしサガはケーキ屋の名を指差す。

 「麓の村にある有名なケーキ屋でな。中でも店名を冠したケーキは幻とさえ云われている。

 魔鈴やシャイナなど女聖闘士たちがどうしても食べたいということで、

 顔パスが効く私が付き添って買いに行ったのだ」

 「…で、でも、昨日は?」

 カノンは我知らず口を尖らせた。

 「昨日も行ったが、既に売り切れたいたのだ。だから今日も彼女に付き合っただけだ」

 サガはケーキを横に置いた。カノンの両頬をその手で挟む。

 「ついでに云えば、この前までは聖域の年末決算に向けて忙しかっただけだ。

 なにもお前の誘いだから断っていたわけではないのだよ」

 「なんだ」

 カノンは呟いた。

 「俺はてっきり」

 「てっきり?」

 「サガの気持ちがまた俺以外に全て向いてしまったのかと思った」

 「カノン」

 サガはやさしく笑った。

 「お前の二日酔いが良くなったら、二人で幻のケーキを食べようではないか」

 「…でも俺は甘いものが苦手だ」

 カノンが俯く。その額にサガはキスを落とした。

 「だから1つだけ買ってきた。二人で半分こしよう」

 そしてその頬にもう一度キス。

 「さあカノン、28歳にもなって泣いてくれるな」





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