Wyvern*Pandora




あなたを愛した女に幸いを



 肉体は人の限界を越えていた。死が躯を蝕む。

 否、既に喰い尽くされたか。男は自嘲した。

 死した躯は尚動く。

 視線を巡らし、やがて立つ、歩む、行く。

 彼の女は何処か?




 女は安らかに眠っていた。

 死んだか。膝を折る。

 死顔とは思えぬほど女は綺麗だった。死こそこの女の幸いなのだろう。

 そうだ、女は死の王を愛したが、誰よりも光に焦がれていた。

 女を殺したのは誰でもない女。

 哀れな。男は女に同情する。哀れな女よ。

 その頬に指をのばして、しかし留める。

 これは不可蝕の女。




 留めた指を引戻し、瞼を閉じる。最早再び女をこの眸に映す力もない。

 貴女を貴女が焦がれた彼の地へ連れて行って差し上げたかったが、けれどそれさえももう叶わぬ。

 死に絶えた細胞が崩れてゆく。その形すらも留めることを許さぬように。

 完全な死。




 せめて永劫に見るだろう貴女の最期の夢が貴女の光となり、光であることを。

 どうか貴女の永久のゆりかごとなる死がやわらかな、穏やかなそれであることを。




 死せる魂にせめてどうか深海のような安らぎを。

 男は仕えた神に祈りながら息絶える。






             back or next