Wyvern*Pandora




揺りかごは墓の下



 墓地には死体が埋葬されている。墓地には眠りが満ちている。




 喪服の女には白い花がよく似合う。

 女の肌は花より白く、女の顔はヴェールで隠れ、女の表情は闇に埋没する。

 空は酷く青いのに。




 墓地は静寂の揺りかご。眠る者を黙してあやす。




 女は死んだ。女は生きた。

 女の悪夢は死んだ。彼の男を伴って。

 女は現に今生きる。誰ひとり伴わず独り。




 愚かな男よ、墓標にお前の名はない。

 墓標には名も無き女の悪夢の名。




 餞の花は死者の魂を悼む故。

 白い花は彼の愛しき闇の王に捧げよう。

 女が愛したのは孤独の王。

 彼の王は女の悪夢にまだ眠る。されど愛しい愛しい、寂しい神。

 貴方は花を愛した故、その眠りの淵よりこの花を見給え。




 彼の王と共に女の悪夢に眠る男よ。

 この花は決してお前に手向けられたものではない。

 花は死者の魂に平穏を望む故。

 お前は私の悪夢を好んで喰ったのだから、その悪夢に彷徨う、これ以上の歓喜はあるまい。




 お前に手向ける花などない。

 お前は私の悪夢で安らかに眠るが良い。




 女は死んだ。男は生きた。

 墓標に男の名はない。男は女の悪夢を伴って、或いは囚われて?

 女は生きた。男は死んだ。

 男は墓土より這い出ることはない。男は彼そのものが女の悪夢と知る故に。

 女は男が女の悪夢で眠ることを許す。

 女はそれが男の遺した最期の慈悲と知る故に。




 覚醒ることのない眠りなのだから、せめて歓喜に満ちれば良い。

 それが彼の男への最初の慈悲。






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