貴女が悪夢と云うのなら
ああ、貴女は何故この暗い世界にそうも美しく白く咲いてしまったのか。
哀しくはなかったのか。寂しくはなかったのか。
哀しかったろう。寂しかったろう。
そう貴女に伝えることが出来たなら、貴女は慰められただろうか。
否、それは貴女を傷付けるだけ。
貴女は闇の王を愛したが、決して闇は愛さなかった。蔑んでいた。
貴女が闇に咲いた日々は貴女にとって悪い夢。
それでいい。
貴女が悪夢と云うのなら、それでいい。
貴女が哀しいと云うのなら、それでいい。
私は貴女の悪夢の一欠片。
それで私は幸せだったが、貴女はどうぞ私をお捨てなさい。
私を抱いたままでは救われぬ。
私は貴女の悪夢の断片。
貴女はどれだけ私が憎かったろう。
貴女の悪夢を知りながら、素知らぬ振りをした私を許さなくていい。
ただ貴女の悪夢で彷徨うことを許して欲しい。
私は喜んで貴女の悪夢で眠ろう。
そうして貴女だけは悪夢からお目覚めなさい。私の最期の声さえも忘れて。
貴女が咲くはずだった陽光の下へ行きなさい。貴女の安らぎは現にこそあるのだろう。
貴女が悪夢から解き放たれたなら、私は貴女の悪夢を引き連れて、貴女の知らぬ墓場へ行こうと思う。
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