骨折兄さんじゃなくなる日
※ 「骨折兄さんと夜の営み」の続き
軽くシャワーを浴びて浴室を出ると、リビングのカウチにサスケがいた。
週末のみ来ることを許しているはずの彼は、おれが右腕を骨折してからというもの、平日の夕方も数日に一度は学校帰りに顔を出すようになった。
とはいえ泊まることはなく、片付けや水回りの家事をして夜を待たずに帰っていく。
それはぶっきらぼうな弟なりの気遣いなのだろう。
だが、大抵はキッチンに立っているサスケが今日は手持ち無沙汰そうにカウチに座り込んでいた。
おれに気付くとイヤホンを耳から引き抜く。音楽を聴いていたらしい。それも止める。
「来ていたのか」
声を掛けると、サスケは「ああ」と頷いた。それから秀麗な眉目を歪める。
「アンタ、それ…」
「ああ、これか」
右腕を見下ろす。ここ最近肌を覆っていたギプスはもうない。
「昨日取れた」
「…だったらそう言えよ。することねえのに来ちまっただろ」
部屋は昨日ざっと片付けた。
洗い物も済ませてある。
サスケがすることもなくぼんやりと座っていたのはそのせいだろう。
「無駄足をさせてしまったな。許せ、サスケ」
言いながら、サスケの隣に座る。
サスケは「べつに」とそっぽを向いてから、思い直したようにちらりとおれの右腕に目を落とした。
「でも良かったじゃねえか。これで不便もなくなるだろうしな」
しかし、そう言うサスケの顔は曇りがちだ。
おれは右手で彼の頬の輪郭を辿った。顔を上げさせる。
「サスケ。来てはいけない、とは言っていない」
サスケはそんなおれを鬱陶しげに払おうとしたが、その手を逆に捉える。
そのまま押し倒した。
「あ…」
とさっとカウチに受け止められるサスケの背。
抵抗しようと身じろぐが、おれに絡められて縫いつけられた手のせいで、それもままならない。
「ん…兄さん…」
カウチの上で抱き合う。
キスもする。
初めは軽く浅く啄むように。それからだんだんと深く舌をちゅくちゅくと絡め合って。
顔を少し離して見詰めれば、サスケの眸はもう濡れていた。
感じやすい子なのだ。体も、心も。
「兄さん…?」
「今夜は泊まって行け」
明日は朝一番で家まで送る。
お前は眠ったままでもかまわない。
そう伝えると、サスケの頬にかっと朱が差した。
そうして返事の代わりに繋いだ右手をぎゅっと握り返される。
「寝室は寒いから、ここで、な」
その首筋に接吻けを落としながら、おれはのサスケの手の熱を確かに感じていた。