この手この指この涙
この顔も手も指も、この心以外は全て彼とはそっくりで、
何も掴めないでいる無力な手を眺めては涙が零れ、
涙を拭おうとした指にふと昔慰めようとしてくれた彼を思い出しては、涙がまた零れる。
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哀れ人
「人を哀れむことしか出来ない、そんなお前こそを俺は哀れだと思うのだ」
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幸せの相対性理論
「嗚呼カノン。お前さえ不幸でいてくれるのならば、私はこの身の幸福を感じることが出来るのだ」
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さびしいうそ
「寂しくないさ」
それこそが寂しい嘘だった。こうして俺たちの世界は暮れてゆくのだ。
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同一性のアイ
せめてyou。出来ればwe。望むのは更なる同一性のI。
サガはheではない、heではない。
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早期治療勧告
カノンが夏風邪を引いた。先週は咳だった。一昨日は咳に加えて喉が痛むと訴えた。
昨日は咳と喉の痛みと熱があると云った。今日は咳と喉の痛みと発熱と頭痛・嘔吐・意識混濁。
今日こそは病院へ連れて行かねばならないと思いながらも、
連れて行くには今日この日まで築いてきた全てを崩して行かねばならない。
明日にはきっと良くなる。明日にはきっと少しくらいは良くなる。だから明日まで待とう。
そうしてカノンの病状はいよいよ悪くなるばかり。
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問い
侵食
私は階段を降りている。私はゆっくりと死んでいくのだ。
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食侵
私は階段を昇っている。私はゆっくりと生き始めるのだ。
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俺を捨てて
「お前が俺を捨てて幸せになれるのなら、そうすればいい。
お前が俺を忘れて幸せになれるのなら、そうすればいい。
俺はどうするのかって?
お前が何百回と俺に伝えた「愛している」は所詮その程度だったのだなと分かるだけだ」
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