にごりみず・未収録
後、カノンは云う。
「そういう世界なのではない。そういうサガなのだ。
そういう世界を望んだサガであり、そういう世界に従うサガであり、
そういう世界で生きたいと願ったサガなのだ。
そしてそういうサガでも仕方がないと諦めているのは、誰でもない、この俺なのだ」
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にごりみず・未収録
カノンとクローン人間について話したことがある。なに、難しい話ではない。戯れの話だ。
声を立ててふたりで笑って話した。その最後にカノンがぽつりと云ったことは、
「クローンはクローンのために生きることはないのだ。オリジナルのために生まれ、生かされる。
死んだオリジナルに代わって生きるわけじゃない。
オリジナルが死なないために、皮膚を臓器を差し出して、クローンがオリジナルの代わりに死ぬのだ」
それから、私に非難の目を向けた。
「俺は一度もお前が死ねば良いと思ったことはない」
まるで私がカノンが死ねばいいと思っているとでも云いたげだった。
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にごりみず・未収録
「俺のため、俺のため、俺のため!違うくせに、違うくせに!
正しい俺しか傍に置けないお前のためだろう!?」
そう云ってから、カノンは壁伝いにずるずると床に座り込み、顔を手で覆った。
「…違う、やはり俺のためだな」
そうしてカノンは笑い始める。ああ、なんて不快。
「そうすることが俺がお前の傍にいれるためのことならば、やはりこれは俺のためだ」
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信仰心よりも大切なもの
「神さまなんかより、お前はお前のこと信じてやんなよ」
カノンはそうぽつりと呟いた。
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サガについての一論
「結局サガという人は、
人の善意であり、悪意であり、やさしさであり、哀しみであり、光であり、影でもあった。
一度は袂を別ったが、サガという人を俺は聖闘士として眩しく思い、誇りに思い、
敬愛の念さえ持っている。
そうしてあいつは実に不出来な兄だった。バカな兄だった。そこが好きだった。そこを、好きだった。
とても愛していたのだよ」
後、カノンは静かに微笑して一切サガに関しての口を噤む。
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眩暈
光溢れる世界に唯一開け放たれた窓の枠に両肘を着き、
「いってらっしゃい、兄さん」
少しだけ口許を上げてみせるカノンに私は深い憤りを覚え、
私に降り注ぐあまりの光の渦に、私は眩暈を感じるのだ。
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2006双子誕1
俺たちは秒にして、1未満。
彼が眸を伏せればその哀しみを、彼が苦笑を浮かべればその僅かの幸せを、逆も然りで、解かり合う。
ふたりだけの永遠は瞬きにさえ潜んでいる。
けれど1という永遠を望まず俺たちは、サガとカノン、2という苦痛にこそ輝く可能性を求めた。
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2006双子誕2
私たちは個にして、1未満。
彼が眸を伏せればその希求を、彼が苦笑を浮かべればその諦観を、逆も然りで、解かり合う。
ふたりだけの全は瞬きにさえ潜んでいる。
けれど1という個を望まず私たちは、サガとカノン、2という個々にこそ眩しい未来を望んだ。
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2006双子誕3
俺たちは時にして、永遠。
彼が眸を伏せて伝える苦しみを、彼が苦笑を浮かべて伝える痛みを、逆も然りで、解かり合えない。
気が遠くなるくらい瞬いたとしても永遠には届かない。
けれど2というを可能性を望まず俺たちは、ふたりでひとつ、1という永遠に喪失からの救いを求めた。
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2006双子誕4
私たちは個々にして、2。
彼が眸を伏せて伝える憤りを、彼が苦笑を浮かべて伝える寂しさを、逆も然りで、解かり合えない。
気が遠くなるくらい瞬いたとしても永遠には届かない。
けれど2という個々を望まず私たちは、ふたりでひとつ、1という二進法を世界の法則と信じた。
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