寂しいあなた
それは「要らない」とやんわり云われているような
もういいよ。もうわたしのためにそのみをぎせいにしなくていいからね。
もういいよ。いたかったでしょう。わたしのためにいたかったでしょう。だからもういいよ。
そう云われることが何より一番痛かった。
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わたしが世界を変えるその日まで
やさしくその手を繋いで、やさしくその指を絡めて、やさしくあなたを引き止める。
「カノン。行ってはいけないよ」
この世界でお前にやさしいのは、この私だけなのだから。
この世界がお前にやさしくなるまで、まだ行ってはいけないよ。
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遺言
カノンが「遺言だよ」と云ったのだ。
身体は海へと帰し、魂は女神に捧げ、そうしてサガ、お前には記憶を残そう、と。
カノンが「遺言だよ」と云ったのだ。
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たった一度のやさしさ
幾度も振り払われたことよりも、あなたのたった一度の優しさこそが残酷でした。
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真実
「サガ。お前、泣いてるの?」
カノンは微笑む私にそう云った。
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ハングマン
額に灼けるような痛みが走った。
カノンの眼が見開く。怖ろしくゆっくりとカノンが手を己の胸へと引いた。
爪先には少量の血と皮膚。私はやはりゆっくりとこめかみに手をやった。
そこはぱっくりと切れていた。
「カノン」
そう云ったのは、カノンが後ずさりをしたからだ。
「カノン」
私は大丈夫だから。痛くない。
「大丈夫だ。痛くない。カノン」
傷を抑えた手の隙間から血がとろりと伝う。しかし、カノン、私は大丈夫だから。
「大丈夫だから。カノン。私は何ともないから」
そう何度も云った。それでもカノンは私から離れる。
その手を胸に抱いて、嗚呼、何故そんなにも怯えたように私を見る?
「カノン…!」
空いた手をカノンに伸ばすが、カノンは身を翻した。
床に残されたのは私の血ではなく、カノンの涙だった。
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埋められないもの
「俺とサガには決定的で、根本的で、決して埋まらない違いがあるのだ。
それはつまり、お前に、俺がお前を追うようなどうしようもなさが、完全に欠如していることだ」
そう静かに呟いたまま、それっきりカノンは何も云わなくなった。
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夕暮れ散歩
手を繋いで歩くのだ。ふたりで夕暮れに歩くのだ。
一緒に歩くのは簡単なようで難しい。歩調を揃えるのは難しい。だから手を繋いで歩くのだ。
例えどちらかが早くその一歩を踏み出してしまっても、
例えどちらかがその一歩を踏み出せなくとも、
そのことに気付くために手を繋いで歩くのだ。
そうしてお互いへの思いやりは欠かせない。
手を繋いで歩いていることを忘れてはいけない。一緒に歩いていることを忘れてはいけない。
手を繋いで歩くのだ。ふたりで夕暮れに歩くのだ。
夜の闇にあなたが沈みませんようにとお祈りを捧げながら。
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どんな顔?
やさしく背を撫でられれば撫でられるほど、顔を決して見せないお前が怖くて、
嗚呼、胸が潰れてしまいそうになるんだ。
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