Draw a Life Line
カノン
お前はかつて白い紙に、このような
一本の線を引いたことがあった
それは離れてしまった私たちふたりの境界線であったかもしれないし
私自身の軋みと亀裂であったかもしれない
もしくは、もしかして私がいつもお前を独り置いて出て行く扉の隙間を表していたのかもしれない
お前はこの線を一生懸命消しゴムで消しながら云ったのだ
こんなもの、こんな線、なければ良かったのに、と
けれどそれはインクで書いたものであったから、消しゴムでいくら擦ったとしても、
滲みが余計に広がり、終いには破れてぐしゃぐしゃになるだけ
それでもお前は無感動に、しかし手を休めることはなく、消していた
一生懸命に消そうとしていた
私はそのようなお前に何も云えなかった
私は何も云えなかったのだ
カノン
私は時折白い紙に、このような
三本の線を引いている
お前がかつて一本の線を引き、一生懸命それを消そうとしていた部屋の隅
私はここにお前を描けない
しかし私はこれを消せない、どうしても、どうしてか
かと云ってインクを滲ませ、紙を濡らすほどの涙も出ない
私はかつてのあの日と同じように、しかしお前のいない三本線を、
時折無感動に見下ろしている
カノン、お前は何も云わない
何も云えない
私は時折三本線を眺めている
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