Marcello*Kukule Log




Marcello


 「如何に死のうが同じなのですよ、閣下。

 病で死のうが、思わぬ戦に巻き込まれ命を落とそうが、剣を交ぜ合い死のうが、自ら命を絶とうが。

 そう、誰かに刺されて死のうが、変わらないのですよ、結局あるのは死という事実のみです。

 ただ生前どう生きたかにより、周囲の反応は違いましょうが、当人にとって死は死なのです。

 閣下、貴方は死後の世界を信じておられるのですか。

 私も神に仕える身であるから、否定はしませんがね。信じるものは救われる、まさにその通り。

 私が祈り、十字を切ることが貴方や彼の者たちの死後の安らぎになるのならば、いくらでもそうしましょう。

 そうして貴方たちは救われれば良い。

 もしも死後の世界があるのならばの話ですがね。

 だが死は死なのです、閣下。お解りですか。死をもって幸福に?

 何故今この生ある世界で、より良い世界を望まぬのです?

 如何に死のうが、祈ろうが、同じなのです、閣下。

 もしこの場で貴方が死を迎えたとして、貴方は幸福になれますかな?

 祈りを捧げながら息を引き取ったとして、貴方は神の御許に行けると真にお思いで?

 幸福になれるならば、私も心置きなくそうすることができますよ。

 しかしもしも如何に生きるかについてまだ興味がおありなら、どうぞ閣下、そう後退ることをお止めなさい。

 逃げられるとどうも追って狩りたくなってしまう性分なのでね。

 さあ閣下、こちらにおいでなさい」




Kukule


 いつか俺のこと許しくれるなんて思ってる自分が嫌い。惨めなことは、本当は嫌い。

 でも生きるためなら仕方ない。

 そんな割り切りの早いところだけは嫌いじゃない。だってあの人に似てるもの。




Kukule



 お前など生まれて来なければ良かったのに、とマルチェロに云われた。

 そんな酷い言葉、アンタはいったい誰に教わったの?




Marcello*Kukule



 アンタが俺のために舌打ちする度、俺はアンタの中に俺を感じる。

 アンタの中の俺がアンタを内から抉って傷付け、疼かせてると思うとゾクゾクするね。

 何も感じないふりして、声を押し殺したって、俺には聴こえる。アンタの呻き、すごくイイ声。

 もっと耳に吹きかけて、その吐息。

 ねえ俺が体の中にあるってどんな気分?

 ねえ俺はアンタが俺の中にあって、すごく気持ちいいよ。

 俺を内から抉って貫き、疼かせ狂わせるから、声まで出しちゃう。

 「あ…っ、あ…あ…ああっ」

 嗚呼、耳元で舌打ち。でもほんとは俺に感じた吐息が欲しい。

 またアンタの中の俺がアンタに意地悪したの?




Marcello*Kukule


 闇の森で彷徨い、マルチェロは「火を焚け」と云った。だがククールはダメだよと首を振る。

 「そんなことしたら、アンタが死んじゃう」

 俺を覆い尽くす闇はアンタだから、そんなことはできないよ。火は焚けない。

 ククールの姿は闇の森に彷徨うマルチェロの外套の更なる闇へと融ける。




Marcello


 「そう、あなたの仰る通り、この世には神が、祈りが、善が必要なのです。

 あなたはそういう世界に生きなさい。私は違う。

 あなたの云う善が、当然の如く疑いの余地もなく存在し得る世界を創りたいのです。

 私はそのためなら闇へでも下れる。

 私の血肉に汚れた手の上で、神に祈りながらあなたは生きるが良い」




Marcello*Kukule


 アンタは俺を時々びっくりするくらい酷く抱く。痛いくらい乱暴に抱く。

 俺はやめていたいよと訴える。

 訴えるともっともっと酷くて乱暴になることくらいわかっていたけど、

 アンタがもっともっと残酷になれるように、云ってあげるよ。

 知ってるんだ。こんなアンタになっちまうのはサヴェッラやゴルドから帰ってきたときだってことくらい。

 俺をどんなに酷く乱暴に抱いたって何が変わるわけでもない。

 そんなこと解かっているくせに、時々そうするしかなくなるアンタは可愛い。とても可愛い。

 可愛いから、いいよ、許してあげる。

 「やめていたい、いたい」

 でも、もっとちょうだい。




Marcello*Kukule


 無感動に刀身に付いた血を払う姿が好き。

 服に付いた俺の髪の毛一本振り払うときは、憎々しそうにするのにね。

 気持ち込めてくれて嬉しいよ。俺だけ特別。俺にだけ特別。




Kukule


 不意に寂しそうにその翠が遠くを見るから、俺は寂しくなる。

 こんなに近くにいるのにと寂しくなる。

 その衣の背をぎゅうと握っても振り向かないアンタのせいだ。




Kukule


 酒場の女の子をひっかけて、並んで歩く月夜道。

 なにげなく女の子が俺の左手に右手を伸ばしてきたので、

 さりげなく指を内へと折り曲げることで俺は女の子を断った。

 「ククールは手を繋ぎたくないの?」と女の子はさして気に留めた風もなく微笑。

 俺もすぐに剣を抜けるようにさと微笑。

 女の子は「そう」とだけ云って、それから月にまつわるお伽噺をしてくれた。

 心地良い子守唄のようなそれに心を寄せながら、俺はすこしだけその心を痛める。

 ごめんな、やさしい君。まだ君の名前さえも聴いていなかった。

 手を繋いでも、いつか離さなければならないのだから、ならば、最初から繋がない方がいい。

 繋ぐ前に、差し出した手が振り払われるなら尚更のこと。

 月夜道のお伽噺は未だ途切れず。





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