Marcello*Kukule
「あん…ん…ん…っ」
ごりごり頭頂骨が寝台の上を這い回る。
「だ…んちょう…っ、団長…っ」
そう呼んでいるにも関わらず、喉笛を食い千切られそうになる。
「腰…なあ…おろして…おろして…っ」
なのにその逞しい腕はセックスに必要なククールの腰だけを支え、好き勝手に回す始末。
「ふぁ…っ、や…くっそ…あぅ…あ…あっ…あぁっ」
背が寝台から撥ね上がる。
「ん…」
すかさず入り込んでくるマルチェロの腕。
「あ…」
不意に額に落ちるマルチェロの汗一滴、染み入って泣きたくなる。
「アンタも…気持ち良いんだな…」
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Kukule
アイツ?
アイツはね、そう子供みたいな人だよ。我侭で思い上がっていて、純粋だから残酷なんだ。
可愛い人だよ。俺のね、可愛い人なんだ。
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Marcello*Kukule
ククールが私の足元で呻きながらも、笑んだ。
「アンタが俺を憎めば憎むほど、俺が悦んでいることをアンタは知っているかい?」
その血に紅く彩られたくちびるがブーツのつま先に寄せられる。
「嗚呼、アンタの魂の一番きれいなところは、全部俺のものだ」
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Marcello*Kukule
蝋燭の灯火が身をゆらめかせる薄闇にマルチェロの手が伸びる。
深淵の泉よりとうとうと湧きいずる清流のような銀糸がその手を伝って落ちた。
「お前のその眸を濡らせば、深い青になるだろうか」
神の剣を収めるこの鞘の色に。
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Marcello
深まった森に光りを見失った頃、「こちらだ」と手を引かれた。
たとえそれが森の奥へと引き摺り込む手だったとしても、そのぬくもりだけは嘘じゃない。
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Marcello*Kukule
サーベルの、その細い柄先が鳩尾にめり込んだと思った時にはもう遅い。
息が詰まり、そのままククールの体は森の湿った腐葉土へと倒れた。
尻餅の音に重なり乾いた音。振り返れば背後の木の幹に矢が突き刺さっていた。
「悪戯好きの魔物の矢だろう」
剥き出しのサーベルをさげたマルチェロが事も無げに云う。
ククールはゆるりとマルチェロを見上げた。
「…一瞬天国が見えました」
馬鹿力めと思いながら立ち上がる。
マルチェロにはククールが土を払うのを待つ気はこれっぽっちもないらしい。もう歩み始める。
「ほう。お前のようなものでも死ねば天国に逝けるのだな」
「微かに見えた女神さまがあんまり美人じゃなかったから、地獄かも」
ククールはその青い背を追いかけ、自らもまた腰のレイピアを抜き放った。
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Marcello*Kukule
上着は適当に肌蹴られ、下履きはずり下げられた姿で、
ククールは兄の肩越しに天井のレンガの数を数えていた。
執務机は高級木材で出来ているらしいが、寝心地は良くない。背中が痛い。
ククールは兄のものを打ちつけらる度に背中の痛みを罵った。ああほらまた数え間違えた。
「…何を見ている」
緩慢に動いていた兄の声が降って来た。
どうせならもっと激しく動いて、さっさと終わらせてくれればいいのに。
ククールは数えるのを中断して、しかし視線は次のレンガに向けたまま答えた。
「天井」
レンガの数を数えていましたと云ったら、拳で殴られた。歯を食い縛る暇も与えられなかった。
「ってえ」
口の中が切れて、鉄錆びの味が広がる。錆びた鉄なんか舐めたことはなかったけれど。
ククールは眸の青玉だけを動かし、マルチェロを見やった。見やって、眼を閉じた。
「ごめん」
そう云うと、また兄が動き出す。緩慢に、緩慢に。
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Marcello
眩しい朝に焦がれながらも、私は夜の深くへとこの身を沈める。
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Marcello*Kukule
「時々思うんだよね」
ククールは決まりきった書類にサインをするような気怠さで、
体の中を出入りする騎士団長の背中を撫でながら云った。
「俺、女なら良かった」
上等の布だ。触り心地はこういう時以外なら極上だろうにと思う。
「大きいアンタのもの入れられるのも痛くなくて、もっと気持ち良いかもしれないし。
…女も痛いかもしれないけどね」
今は汗が流れるその肌に触れたい。
「アンタの子供、孕めるかもしれない」
マルチェロの体積が増すのを感じて、ククールは呻いた。
「そしたらアンタは俺から離れられない」
マルチェロは嘲笑った。
「捨てられるとは思わないのか」
ククールは青い騎士服の裾を見つけて、手を侵入させる。
「思わないさ。アンタは親父みたいにはならない。怖くてなれない」
マルチェロの指がククールの胸を抉るように爪を立てた。今度こそククールは喉の奥から苦痛に呻いた。
マルチェロが耳元で囁く。
「硬いな」
ククールはマルチェロの素肌を味わう。
「男なんでね。安心して中に出していいぜ」
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Marcello*Kukule
ククールは声を上げた。
「はっ。なんだよ。アンタ俺が羨ましいだけなんだろ。
俺の髪も眼も鼻も口も体も、アンタじゃない。ククールだ。
アンタの全てを奪ったククールだから、羨ましいだけなんだ」
だから壊したいんだろう。
最後にそう呟いたくちびるは、次の拳の衝撃に耐え兼ねて血を流した。
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