Marcello*Kukule Log




Marcello


 螺旋階段の最下層で哀れな子供が泣いていることを知っている。

 螺旋階段の最も深くで哀れな子供が手を天に伸ばしていることを知っている。

 手を伸ばしても神は何も与えはしない。神などそも存在はしないのだから。

 せめてもう泣くことも求めることもないように、私は螺旋階段に剣を突き立て、崩れる過去に子供を埋めた。




Kukule


 あなたにククールと呼びかけられ、はじめてククールになれるのと、

 ひとり自らにマルチェロと呼びかけて、マルチェロになってしまうのと、

 いったいどちらが寂しいのかな。




Marcello*Kukule



 「このクズが」と兄が云う。

 はいはい、解ってますとも、おにいさま。クズでガラクタ、お前なんか要らないと仰りたいのでしょう。

 どうぞ、どうぞ、罵りください。もう勝手にしてちょうだいよ。

 そうして閉じた瞼に兄の指先が触れる。

 「目を開けよ」

 ぐいとこじ開けられれば、兄の精悍な顔、射貫くような眼。

 嗚呼と思った。いいや、解った。この人の強さは全てに眼を開けていられることなのだと。




Kukule



 牢獄の深くで嘆く。

 嗚呼、あなたの神はあなたに人を殺せと云う神なのか。




Marcello


 今日も私に雨は降る。




Kukule


 俺が死ねばアンタは幸せになれるんだ。

 ふうん、アンタの幸せも安上がりで随分と底が浅いんだな。





Marcello


 アンタのために俺は死ねないと奴は云った。

 「最期の最期のその瞬間まで、俺は生きてもがいて、アンタを決して死なせやしない」




Kukule


 いつだってマネーゲーム。アンタは金勘定に忙しい。

 やれ株価が上がった投資だ投資と今日もギラギラ。

 仕方ないね、手伝ってやるよ、ソロバン貸して。仕方ないね、ぺこぺこ廻ってやるよ、営業マン。

 さあソロバンを弾け!暗算は桁数多くて間違うぞ!

 いちじゅうひゃくせんまんいちおくじゅうおく、もうたくさん!

 いつだって経済紙と睨めっこ。貯蓄に励んで使う先は賄賂と接待。

 偶にはそんなギラギラした目で俺を見てちょうだいよ。

 いっそ旅に出てみようじゃないか、ソロバン捨てて。いっそ旅に出てみようじゃないか、無職放浪。

 金なんてその辺のモンスターを倒せば出てくるぞ!衣食住には困らない!

 いちじゅうひゃくせんまん、これだけでもう充分!

 それでも、嗚呼仕方ないね、アンタのためにソロバン弾くよ。

 仕方ないね、アンタのために営業スマイル振りまくよ。

 ほら、ちょっと哀しいから暗算計算間違えた!




Kukule


 何度だって立塞がるよ。何度だって邪魔してやるさ。だってね、それが俺の愛なんだ。

 「何度だって止めてやる」は「何度だって愛するよ」ということ。

 何度でも何をしでかしても、俺はこれっぽっちも揺らがない、見捨てない、ずっとアンタのことを想ってる。

 だからね遠慮なく悪いことしてみなよ。思う通りに生きてみなよ。

 「止めに行くよ」は「助けに行くよ」ということ、「愛しに行くよ」、そういうこと!




Marcello*Kukule


 「お前に私の何が解る」とマルチェロが云うので、ククールは笑ってやった。

 アンタこそどうして俺が解ってないって解るのさ。いつも背を向けて俺なんか見たこともないくせに。

 俺は解ってるよ、とククールは云った。

 少なくとも肩幅や背の高さ、歩き方と剣の抜き方。

 「それくらいは解ってるさ」





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