ゴーゴー十二宮
白羊宮。
「ムウ。通らせてもらうぞ」
「あ、アフロディーテ。ちょうどよいところへ。これ、あげます」
「…トイレットペーパー6個入り袋だと?…要らんぞ、こんなもの」
「商店街の福引きで20セットも貴鬼が当ててしまって、置き場所に困っているんですよ」
「運がないのかあるのか、微妙なところだな」
「まあそういうわけで、どうぞ」
「だから、要らんと云っている」
「えー…。あ、ああ、そうそう。貴方、確か誕生日でしたよね。
おめでとうございます。はい、プレゼント、どうぞ。もらってください」
「…解った。解ったからなにげに2セット追加するのをやめてくれ」
アフロディーテの右手にはトイレットペーパー6個入り袋。
金牛宮。
「アルデバラン、通してもらうぞ」
「よお、アフロディーテ。外に出掛けていたと思えば、
トイレットペーパーを買いに行っていたのか。云ってくれれば、うちのをやったのに」
「いや、普通に勘違いだ。ムウからもらったのだ。というか押し付けられた」
「ああ、誕生日か?」
「よく覚えていたな」
「うむ。では、これ、プレゼントだ」
「…ロールケーキ?」
「貰い物だけどな。賞味期限が4日ほど過ぎているのが心配だが、わはははは」
アフロディーテの左手には賞味期限4日過ぎのロールケーキが追加された。
双児宮。
「サガ、通してもらうぞ」
「ああ、良いとも。ところでアフロディーテ、誕生日プレゼントだ。ほら。
お前が好きだと云っていた写真家の新しい写真集が発売していたのでな」
「ああ、さすがサガだ。素敵なプレゼントだな。似非インテリチックなところがまたいい」
「…ふふふ」
「…ふふふ」
アフロディーテの左脇に写真集が挟まれた。
双児宮・裏手。
「カノン、そんなところでコソコソ喫煙か?」
「あ?…ああ、サガに部屋に煙草の臭いが移るからと追い出されたのだ。
にしてもお前、買い物のセンスが無さ過ぎだろう、それ。
トイレットペーパーに、ロールケーキに、写真集って、組み合わせが変だぞ」
「君の兄も一枚噛んでいるのだがな。まあ取り合わせの変さは私も認めよう」
「…あ…ああ、魚座ということは誕生日プレゼントか?」
「まあ、そういうところだ」
「十二宮の奴等ってプレゼントのセンスないのだな…。
んじゃ、俺も何かやろう。えーと、何か持っていたかな…お、これでいいか。はいよ」
「百円ライターって、君も大概センスがないぞ」
「ギリシアなのに百円ライターというところにセンスを感じろ」
アフロディーテのポケットに百円ライターが追加された。
巨蟹宮。
「おい、デスマスク。宮の前で寝るな」
「いてっ!…ったく、蹴るか、普通。…何なのだ、そのトイレットペーパーは」
「誕生日プレゼントだ。君もよこせ」
「トイレットペーパーならトイレの上の棚にある。勝手に持って行け」
「誰がトイレットペーパーをくれと云っているのだ」
「えー。んじゃ、これやるよ。眠気覚ましのガム。全く眠気がとれんやつな」
「すごく要らないぞ、そんなもん」
「俺も要らねえ」
アフロディーテの口の中に眠気が取れない眠気覚ましのガムが入れられた。
獅子宮。
「通らせてもらうぞ、アイオリア」
「おう。…って、なんだ、その荷物は。また女からの貢ぎ物か?」
「こんなものを貢ぐ女と付き合うほど暇じゃない」
「では、どうしたのだ、それ」
「男からの貢ぎ物だ」
「悪かった。何も聴かんから、さっさと通ってくれ」
「真に受けるな。誕生日プレゼントだよ」
「…ああ、そうか。じゃあ俺も何かやろう。えーと何かあったかな…。
…あ。そうだ。今日は肉の特売日で買いすぎたのだ、要らんか?」
「…有り難くもらっておくことにしよう」
アフロディーテの左腕に肉入りのスーパーの袋がぶら下げられた。
処女宮。
「通してもらうぞ、シャカ」
「それはいいがね、君、生臭すぎだ。というか生活くさ過ぎはしないかね?」
「的を射た意見痛み入るね、シャカ。十二宮の皆は俗世間に犯されているらしい」
「ああ、では君にはこれをやろう」
「…私にはたんなる麻紐に見えるが」
「一見麻紐だが、有り難い私の髪結い紐だ。どれ、結んでやろう」
「で、これは何の役に立つのか?」
「俗世間にまみれ、罪深い君のことだ。行く先は地獄だろう」
「なるほど、蜘蛛の糸というわけか」
「同じ黄金聖闘士のよしみだ、
君が地獄に落ちたときは天上からこの紐を引っ張ってやろう」
「有り難い。君が地獄でなく、奇跡的に天上世界へ行けたら引っ張り上げてくれ」
アフロディーテの髪は麻紐で結い上げられた。
天秤宮。
「お久しぶりです、老師。こちらへお帰りでしたか。その背の籠の野菜は…?」
「おお、アフロディーテか。うむ。わしの畑で野菜が今年は多く収穫できてのう。
黄金聖闘士の皆にお裾分けとして持ってきたのじゃ」
「はあ…それは有り難う御座います」
「そういうアフロディーテは、いったいどうしたのじゃ、その出で立ちに荷物」
「これは、私の誕生日に皆が押し付けてくれたものです」
「ほうほう。そうじゃったのか。じゃあわしもプレゼントをやらんとのう。
そうじゃ。よし、この野菜をやろう。特別にお前にだけ、な」
「え。要らな…いえ…有り難く頂きます」
アフロディーテは背に籠いっぱいの野菜を背負った。
天蠍宮。
「ミロ、通らせてもらうぞ。云っておくが、何も云うな」
「…くそ、折角なんて間抜けな格好しているんだ、と云ってやろうと思ったのに」
「…君、それがわざとでなかったら、ぶっ飛ばしているところだぞ」
「で、何なのだ、その格好。薔薇だけでなく野菜も育てていたのか?」
「違う。老師に頂いたのだ。その他の物はこれまでの宮の者達にもらった」
「老師に…?あ、そうか、今日はお前の誕生日か!おめでとう!」
「初めて爽やかに祝いの言葉を云ってくれて有り難う。
その気持ちだけで充分だ。これ以上私に変なものを押し付けるなよ」
「おいおい、どうして足早に去るのだ。俺にも祝わせてくれ」
「だから、その言葉だけでいいと云っているだろうが」
「それでは俺の気がおさまらん!ほら、これを持って行け!」
「…鴨のぬいぐるみのキーホルダー…」
「この間、UFOキャッチャーでとったのだ。かなりの額を注ぎ込んだが、お前にやる」
アフロディーテの指に鴨のぬいぐるみキーホルダーがはまった。
人馬宮。
「やあアイオロス、今日も精が出るな。
相変わらず宮に罠を仕込んで、メッセージを刻むことに励んでいるようだが?」
「ようアフロディーテ、お前も十二宮住民との交流に精を出しているようではないか。
そのちぐはぐな荷物は皆からもらったものだろう」
「ご名答。何ならあなたからも貰って差し上げても良いが?」
「ではこのメッセージに特別にお前の名を記しておくことにしよう。
『アフロディーテよ、アテナを託す』、どうだ?これでいつサガが反旗を翻しても安心だろう」
「不吉な仮定だな、おい」
アフロディーテは面倒事は御免だと早速己の名を消して人馬宮を通り抜けた。
魔羯宮。
「シュラ、ちょっと休ませてくれ」
「それはいいが…いや、何も聴くまい。関わりたくないのでな」
「いや、ぜひ聞いてくれ。それが嫌ならば、この荷物を入れるものをくれないか」
「これ、とはトイレットペーパーにロールケーキに本に肉にキーホルダーのことか?」
「ついでに百円ライターもあるぞ。あとガムはそろそろ捨てたい。味が薄い」
「と云ってもな、俺の処にそれを全て入れれるような袋はないぞ」
「この際もう見てくれはどうでもかまわない」
「…そうだな…あ…鍋だ。確か大きめの鍋があった。
あれならばトイレットペーパーと野菜以外ならば全て入るぞ」
「うむ。もうそれでかまわん」
アフロディーテはガムを捨て、トイレットペーパーを右手に抱え、野菜を背負い、
それ以外の荷物を全て鍋に詰め込み左手に持った
宝瓶宮。
「カミュ、通らせてもらうぞ」
「それはいいが、どうしたのだ、その料理人のような出で立ちは」
「…そうか。なるほど、そう見えなくもないな」
「うーむ、食材から見るに今晩はカレーか?」
「ルーがない。というか、何故カレー…」
「いや、たんに私が今作ろうとしていたのがカレーなだけだ。ルーがないのならば、分けてやろうか?」
「何か違う気がするが、ルーはいつか使うだろう…もらっておく」
アフロディーテは鍋にルーを入れた。
双魚宮・前。
「…アテナ?」
「 あら、アフロディーテ。遅かったですね。けっこう待ちましたよ」
「申し訳ありません、アテナ。しかし何か今日、貴女と約束していたでしょうか」
「いえ。私が勝手に待っていたのです。さあ、跪きなさい、アフロディーテ」
「…は?」
「いいから、跪くか、しゃがむか、座るか、腰を屈めるか、寝転びなさい」
「はあ。では一番ましな腰を屈めることにしましょう。…これで宜しいでしょうか?」
「はい。あと眼を閉じて下さるかしら?」
「閉じましたよ、アテナ」
「お誕生日おめでとう、アフロディーテ」
ふわりと麦わら帽子。
「園芸をやってるのでしょう?日射病にならないためにも、被って下さいね」
女神が微笑むと、アフロディーテは屈めていた腰を伸ばした。
「有り難う御座います、アテナ」
「ところで、アフロディーテ。今晩はカレーを作るのですか?」
とアフロディーテの荷物を覗き込んで女神。
「はあ…まあ…知らない内にそういうことになったみたいです」
「えらく大量に作るつもりなのですね、その野菜から察するに。
あ、もしかして貴方の誕生日会とかですか?なのに貴方が御飯を作るのですか?」
「いえ、そういうわけでは…」
「私、前々からそういう庶民めいた誕生日会に参加してみたかったのです。
夕食はカレーだなんて、とっても素敵ですね。私もお手伝いしても良いかしら?」
「…アテナがそう仰るなら」
麦藁帽子姿のアフロディーテは困ったように笑みを浮かべた。
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