Gemini*Wyvern*Pandora*Frog




看病の半分は優しさで出来てます



 「折り入って頼みがあるのだが」

 とサガがカノンを伴ってカミュのもとを訊ねたのには裏がある。

 カノンはサガの背後で不審そうな視線を向けている。

 カミュはカミュで怪訝そうに何故か二股に分かれた眉を寄せた。

 「私に頼み?」

 「そうだ。お前にしか出来ないことなのだ」

 引き受けてくれるか?と問うサガに、カミュはしばし迷って頷いた。

 「私に出来ることならば喜んで」

 「そうか。では」

 刹那。

 「幻朧拳!」

 振り返り様にサガがカノンに小宇宙を放つ。

 「のわああっ」

 寸でで避けるカノン。

 「サガ!貴様何の恨みがあって!」

 「避けるとはいったい何を考えている、カノン」

 「お前がいったい何考えとるんだ!」

 「カノン。これには深い理由があるのだ」

 そっとサガがカノンの顔を覗き込む。

 「それは」

 「それは?」

 「それは…幻朧拳!

 「ぐはっ」

 不意打ちを食らい吹っ飛ぶカノン。

 「お前が知ることではないのだと云おうとしたのだが」

 床に倒れたカノンに近寄り、サガはそっとその体を揺する。

 「カノン?…ふ、こんな処で眠っては風邪を引くぞ?

 「…あなたが眠らせたのだろう、サガ」

 カミュは遠い目をして云う。

 サガはそれを無視して優雅な仕草で立ち上がった。

 「さて。折り入って頼みがあるとはこのことだ

 「どのことだ。それで頼みとは何だろうか」

 カミュは続きを促す。

 この双子には関わらぬが身のため、聖域では最早常識。

 自宮が壊されない内にさっさと追い出してしまいたかった。

 「うむ。頼みとはお前の技を借りたいのだ」

 「私の技?」

 「そうだ」とサガは徐に眠っているカノンを振り返る。

 「カノンにフリージングコフィンをかけてはくれないか?」

 「サガ。そんなことをしたら永遠に眠ってしまうのだが

 「心配無用」

 「心配すぎる。さすがの私でも仲間を手に掛けるのは気が引ける」

 「いやなに。すぐに氷の柩から解き放つ」

 「…すまん、サガ。私にはあなたが何をしたいのか分からない

 カミュは眉間にしわを寄せた。

 「風邪を引かせたいのだ」

 「…なに?」

 「カノンに風邪を引かせたいのだ」

 「…今あなたは‘こんな処で眠っては風邪を引く’とか何とか…」

 「うちのカノンはあの程度では風邪など引かぬ」

 とサガは何故か残念そうに溜息を吐いた。

 良いことではないかとカミュは思ったが何も云わなかった。

 展開がまずい方向へと向かっているので、とにかくこの双子をさっさとどうにかしたいとカミュは思う。

 「分かった。カノンを凍らせれば良いのだな?」

 「分かってくれたか。宜しく頼む」

 実のところあんまりよく分かっていなかったが。カミュは小宇宙を高めて、カノンに向かった。

 「フリージングコフィン!」

 みるみる凍り付いてゆくカノン。

 「カノン。もうすぐ助けてやるからな」

 その柩を微笑んで撫でているサガの姿を見て、

 カミュは弟子にした仕打ちを少し危険だったかと反省した。




 「お…れサガ

 カノンはベッドに沈んで呪いの文言を繰り返す。

 それを目敏く聴いていたサガが、

 「ふ。お前はカノンだろう?」などと無駄に髪を撫でてくるものだからカノンの怒りは更に増す。

 「おのれと云ったのだ、おのれと!…う…げほっ…」

 「大きな声をだすな。喉が痛むだろう」

 「誰のせいだ」

 カノンはベッド脇に座るサガを睨んでみせるが、高熱のせいかその眸は潤み、頬には朱が差している。

 「カノン。それはお前のせいだ」

 「なに?」

 「お前がバカなせいで、お前は風邪を引かぬ」

 バカは余計だが、良いことではないか」

 聖闘士は体が資本。風邪を引いて光速可動が出来なかったでは話にならない。だが、

 「全く良くないわ!」

 「な…なに?」

 「無駄に元気なお前のせいで、私はお前を看病出来ぬではないか」

 「何がしたいんだ、お前は」

 カノンは頭痛が続く頭を抱えた。

 「カノンよ。私は一度で良いからお前を看病してみたかったのだ」

 「貴様、それだけのために俺を氷付けにしたのか!げほっ…」

 「氷付けにしたのはカミュだ」

 サガはカノンの髪を梳きつつ微笑む。

 そうしてゆるりと立ち上がった。

 「さて、今日はお前を看病せねばな」




 サガが出て行って暫く、カノンはベッドに身を沈めて思考に耽る。

 そういえばと思い起こされるのはこれまでの兄の仕打ち。

 やたらと殴られたり、蹴られたり、どつかれたり、

 終いには殺されそうになったりといろいろあったが、

 あの全てが看病したいという一心でないことをカノンは祈った。

 と。

 「カノン」

 サガが扉を開けて顔を覗かせる。

 サガの手には体温計と洗面器に汲んだ水と濡れタオルがあった。

 どうやら本気で看病したいらしい。

 原因はサガとしても、カノンは紛れもなく高熱で苦しかった。

 故に仕方なくその看病を受け入れることにする。

 怒るにしても何にしても体が治らねば何もできない。

 「とりあえず熱を計ろうな」

 「ガキ扱いをするな。自分で出来る」

 カノンは力の入らない手でサガから体温計を奪う。それを脇の下に入れていると、
 
 「ひぁ…っ!」

 サガが突然耳に舌を入れてきた。

 思わず首を激しく横に振る。

 「何をする!」

 「最近の体温計は耳で計ることが出来るのだぞ?」

 「お前は最近の体温計か!?舌を入れるな、舌を」

 体温計を挟んでいない側の手で耳を塞ぐカノン。

 すると今度はサガが接吻けてくる。

 「ぬーっ!う…っうっ…」

 熱い舌を絡め取られ、カノンの体から更に力が抜けていく。

 「舌が熱いな。やはり熱がある」

 「どう見ても熱があるわ!」

 カノンは解放されたくちびるを袖で拭って抗議の声を上げる。

 氷付けにされたなど聖闘士でなければ死んでいる。

 「というか体温計があるのだから、やたらと己の体で俺の熱を計ろうとするな」

 「お前の平熱は私が一番良く知っているからな」

 サガは云いつつ濡れタオルを畳んでカノンの額に乗せた。

 「否、私が知るお前の体温は平熱よりも少し高いだろうか?」

 その言葉に含まれる響きにカノンはそっぽを向いた。

 「知らん」

 「さて、そろそろ体温計を出せ」

 「ん…」

 カノンが体温計をサガに手渡すと、サガは顔をしかめた。

 「40度か」

 「そんなに高熱なのか、俺」

 「うむ。それにしては元気でつまらぬ。いや、意識があって良かったな」

 「貴様…。俺とて伊達に体を鍛えているわけではないわ」

 「しかしこれ以上熱が上がってはさすがにいかんな」

 細胞が破壊される恐れがある。

 「風邪を引かした原因が何を云うか」

 カノンは額からずり落ちそうになったタオルを押さえて嘆息した。

 それに気付いてサガがタオルを再び濡らし掛け直す。

 「何か食べたいものはあるか、カノン?」

 「いや。とりあえず一度眠る」

 そう云ってカノンはゆるゆると眸を閉じた。

 まだ激しい頭痛は続いている。その頭に響いてきたのは、

 「眠ったら熱が下がって仕舞うではないか」というサガのあまりに理不尽な言葉であった。

 必ず風邪を治して復讐しようとカノンは誓った。




 どれくらい眠っただろうか。

 カノンがふと目を覚ますと、ベッド脇にいるであろうサガがいなかった。

 なまじいるだろうと思っていたので、サガの不在が不快に思えて仕方ない。

 そんなことを思ってしまう己が少し惨めだが。

 額のタオルを確認して、それが冷たくないことが更に不服。

 ついでに怠い体と痛む喉に鞭打って、その名を呼んでみる。

 「サガ」

 だが返事はなし。

 もう看病に飽きたのだろうか。

 カノンは冷たくないタオルを額から除けて寝返りを打った。

 扉に背を向けて寝てやるのはささやかで大人げない反抗。

 と。

 もう一度眠ろうとしたカノンの耳に扉をノックする音が聞こえてきた。

 反射的に振り返ると、扉が軋み開くところであった。

 「サ…」

 兄の名を呼ぼうとしたカノンの眸に映ったのは、

 「カノン…」

 高熱にふらつき、鼻水を垂らす冥界三巨頭ラダマンティスであった。

 「お前はラダマンティス!いったいどうしたんだ?」

 カノンはむくりと上半身を起こして戸口に立つラダマンティスに問うた。

 「すまん、カノンよ。…げほげほ…少しここに置いてもらえないだろうか」

 冥界三巨頭は咳き込み、鼻を啜りつつ云う。

 彼は持参したのだろう、寝袋と枕を抱えていた。

 「それは構わないが、俺は風邪を引いているのだが?」

 「安心しろ。俺も引いている。これ以上悪化する可能性はない

 「全く安心出来んぞ、その事実は。…うっ…げほげほ」

 「お前の風邪も酷いようだな」

 云いつつラダマンティスはカノンのベッド横に寝袋を置き、

 ふらふらとその場に座り込み、終いには横になってしまった。

 「お前もな。…ちょっと待っていろ」

 カノンは眠ったおかげだろうか、少し軽くなった体をベットから降ろして、

 この哀れな冥界三巨頭に床の上にだが布団を敷いてやった。

 その布団に体を横たえたラダマンティスにカノンは更に問う。

 「で、何故お前はわざわざそんな体で俺のところに来たのだ」

 見舞いに来たとでも云ったら笑ってやろうとカノンは思った。

 「げほげほ…うむ…それが…冥界から出てきたというか。

 冥界の皆にこの強力な風邪をうつしてはならぬと思ってな」

 「それは良い心がけだが、俺にはうつしても良いのか、お前は

 「いや、お前が酷い風邪を引いていると聞いて訪ねてきた次第だ。

 それ以上悪化することもあるまい?…げほげふっ…

 「なるほど。事情は分かった。俺もこんな体故何もしてやれんが、ゆっくり休んで行け」

 「すまないな」

 「なあに気にするな。旅は道連れと云うではないか

 「カノン、それは少し違う」

 何やら死の旅路のような響きを聞き取ってラダマンティスは唸った。




 悪い風邪の菌が二人分も部屋に充満しているせいだろうか。

 眠って良くなったと思ったカノンの体は再び高熱にうなされ始めた。

 「カノン…げほっ…ずび…無事か?

 「げほげほ…おのれ、サガめ…こんな時に何処へ行ったのだ…!」

 先程から姿の見えない兄を恨む弟。

 そしてベッドの上からラダマンティスに詫びた。

 「サガがいればお前に満足な看病を施してやれるのだが」

 「気にするな、カノン…ずひーずひー。俺は大量のティッシュがこうしてあるだけで満足だ

 と。

 突然カノンが何かを感じたのか顔を上げた。

 「どうした?」

 問うラダマンティスにカノンは少し皮肉げにだが笑って見せた。

 「ああ。サガが帰ってきた」

 その言葉通り、扉がノックもされずに開いて、顔を出したのはサガ。

 「ただいま、カノン。そしてティッシュはゴミ箱に捨ててくれ、ラダマンティス

 サガはラダマンティスの存在にさして驚いた風もなく云った。

 「サガ、貴様俺を放っておいて何処へ行っていたのだ?」

 カノンは部屋へと入ってきた兄を見上げて唸る。

 「ああ。すまなかった。先程気付いたのだが、薬がなくてな

 風邪も引かない聖闘士宅に薬は無用の長物だったらしい、今までは。

 「最初は要らぬかと思ったが、お前があまりに苦しんでいたので買ってきた

 「そうか…」

 「そうだ。どうした、私がいなくて心細かったか?」

 そうサガが云ってベッドに腰を下ろすものだから、

 思わずカノンはサガを見ていられなくなり、そっぽを向く。

 サガは少し笑って、次にラダマンティスに目を向けた。
 
 「随分と酷い風邪のようだな、ラダマンティス」

 「ああ。すまない、突然訪ねてきてしまって。げほ」

 「良い。気にするな。そう、お前に客が来ているぞ

 「俺に客?」

 ラダマンティスは鼻をかみつつ首をかしげる。

 地上に知り合いなどいない、知り合いと云えば聖闘士くらいだろう。だがサガは冥闘士だと云う。

 「誰だ…?」

 その問いかけに応えるようにして、サガが扉に向かって手招きをした。

 「入ってこい、遠慮するな」

 そして。

 イヒヒ。お加減は如何ですか、ラダマンティスさま」

 姿を現したのは栄養ドリンクの袋を下げたゼーロスであった。



 「買い物途中でこのゼーロスと会ってな。大体の事情は聞いた」とサガ。

 故にラダマンティスが部屋にいたことにも驚かなかったのだろう。

 「ラダマンティスさま、お加減は如何ですか?」

 「まだ冥界へは帰れぬ。それにしても何故来たのだ!」

 折角皆に風邪をうつしてはならぬと冥界より出てきたというのに、

 これではゼーロスが菌を冥界に運んでしまうではないか。

 「パンドラさまよりの命で。パンドラさまはたいそう心配しておられましたよ」

 「…ほ…本当か?」

 「イーッヒッヒッヒッヒッ!冗談です」

 ラダマンティスは無言でゼーロスを殴り倒した。

 そしてその反動からか激しく咳き込む。ゼーロスは素早く復活し、ラダマンティスの背を撫でた。

 「ほらほら、ラダマンティスさま。ご無理はなさらずに」

 「貴様…」

 「ラダマンティスよ。ゼーロスの云う通り、今は静かに養生するが良い」

 呻くラダマンティスにサガが見かねて声を掛ける。

 「ゼーロスのことなら心配要らぬ。

 お前が治るまで、ここに留まり看病するということらしいからな

 故にラダマンティスの風邪の菌は冥界には運ばれないとサガは云った。

 「よ…余計に治らぬ気がするのは俺だけか…?」

 「ヒッヒッヒッ。そういうわけです、ラダマンティスさま」

 ゼーロスが無駄に跳ねるその横で、

 「さて、私はふたりのためにフルーツでも剥いてくるとしよう」

 サガはゆっくりと立ち上がり、カノンの頭を撫でて行った。




 「カノン、口を開けろ」

 ベッドに腰を下ろしたサガが云うが、カノンは憮然としたまま動かない。

 サガの手には瑞々しい林檎の一片。

 「それともウサギ型に剥いて欲しかったのか?」

 「違うわ!」

 そう叫んだ瞬間、口に林檎を放り込まれる。

 「むぐ…っ」

 「ほらほら、そんなに慌てて喰わなくとも

 「…っ。…慌てるわ!貴様、本当に俺を看病したいのか?」

 「無論だ。しかしこれには重大な問題がひとつあってな。

 私は人を看病したことがなかったのだ。故に見よう見まね、許せよ

 「許せるか!…げほ…なんちゅー無謀なことを」

 「にしても何か食ってもらわなければ薬を与えられん。次はウサギ型に剥いてやるから、大人しく食え」

 「だからウサギはいらんと云うに」

 このようにベッドで双子が微笑ましい光景を繰り広げている、その下で、

 ラダマンティスとゼーロスも攻防を繰り返していた。

 「ラダマンティスさま。林檎が剥けました」

 「ああ、すまないな」

 差し出された林檎の乗った皿に手を出してラダマンティス。

 だが、ゼーロスがそれを止めた。

 「動いては体に毒。さあさ、あーんしてください

 「出来るか!そんなこと」

 「ああ、ではラダマンティスさまが林檎を食されている間に、

 私はラダマンティスさまのお体を拭くことに致します。ケケケ

 「いらん!やめろ!さーわーるーなー!」

 「こんなに汗ばまれて」

 「ぬお!貴様、触るなと云っているのが聞こえんのか!」

 そんな微笑ましいふたりの様子を眺めてサガは、ほうほうと頷いた後、くるりとカノンに向き直った。

 「だそうだ、カノン」

 「…何が、だそうだ、なのだ?」

 微笑み合う双子、じりじりとベッドの上で睨み合い、

 「あぅっ…!触るな、サガ!」

 「今更恥ずかしがることではあるまい」

 ベッドがぎしぎしと音を立てた。




 そんなこんなで、解熱剤を飲んでふたり。

 薬の効果か深い眠りに落ちていった。




 声が聞こえた。

 「ラダマンティス」

 慣れ親しんだ、高飛車な女の声。

 「ラダマンティス、起きよ」

 云われて目覚めるラダマンティス。

 そこは冥界でなく、地上、更に云えば聖域であった。

 パンドラがいるはずもなく、夢かとラダマンティスは首を振った。

 そうしてゆっくりと眸を開けると、

 「パ…パンドラさま!?」

 そこにいたのは冥界の女性、パンドラ。

 慌てて上半身を起こし、挙げ句布団から飛び出して深く頭を下げるラダマンティス。

 「何故ここにパンドラさまが…」

 「お前が勝手に休暇を取って地上へ行ったと聞いてな」

 パンドラには風邪のことを一切告げてはいない。

 「勝手な行動、お許し下さい」

 「良い。今回は大目に見よう。但し」

 「但し?」

 「私の共をせよ」

 「は、喜んでお供いたします。して何処へ?」

 「アスガルドだ。ヒルダというオーディン地上代行者との会談がある」

 アスガルド、雪と氷に閉ざされた世界。

 「お前が都合良く地上にいて良かった。さあ行くぞ

 「へ…今からですか?

 パンドラはラダマンティスが風邪を引いているとは一切知らない。

 「何か文句があるのか?」

 「いえ、滅相も御座いません」

 「ならば行くぞ。ゼーロス、用意はいいな?」

 「イッヒッヒッヒッ。もちろんですとも、パンドラさま」

 ゼーロスはラダマンティスの寝袋と枕を持って準備万端。

 こうしてラダマンティスは体温39度の体を引きずって、アスガルドへと旅立っていった。




 目覚めるとサガがいた。

 額にのっているタオルは冷たい。

 カノンはラダマンティスが寝ていた床を見たが、彼の姿はもうなかった。

 回復して帰ったのかもしれないと適当に見当を付けた。

 ただの風邪だったラダマンティスよりも、

 氷付けにされたカノンの方が重症だったらしく、長い時間眠ってしまったようだ。

 再びサガに視線を戻して、サガが眠っていることに気付く。

 微かに揺れるサガの前髪に手を伸ばしてカノンは小さく笑った。

 「ちゃんと看病しろよ、サガ」

 そうして上半身を起こす。

 寒くて身震いした。

 「サガ」

 サガの体にそっと腕を回して、

 「寒い」

 その耳元で囁くと、サガが目を覚ました。

 「ならば横になれ。そうすれば温かいだろう」

 体を押し戻されたが、しかしカノンはサガの体に腕を回したまま。

 重なったサガの体からカノンの体に熱が移り、

 「折角熱が下がったのに、また上げる気か?」

 ふたりは互いのくちびるをくすぐり合うように笑った。






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