Old Aries
あなたを誰よりも敬愛します。
「シオン」
あなたがこの世界に降誕されたときの喜びは、今でも忘れることが出来ません。
なんと神々しく、なんとお優しい微笑みなのか。
「シオン」
これから訪れよう聖戦。
まだ小さいあなたのお身体をこの腕に抱いたとき、
必ずこの手であなたを守り抜こうと、必ずあなたを導こうと、
「シオン」
されど私はあなたを残し、冥界へ旅立たなければなりませんでした。
どんなに口惜しかったことか。どんなに辛かったことか。
「シオン」
そして私は再び目覚めることが出来ました。しかしそれはあなたの命を奪うために。
この手が震えました。涙が零れました。
「シオン」
それでもあなたは分かってくださいました。ただ微笑んであなたは戦いへと逝かれました。
あなたを守り導くと誓ったというのに、守り導かれたのは私の方。
「シオン」
けれど、
「アテナ」
見上げたあなたの美しい顔には何故でしょう。涙が止めどなく溢れ、涙が零れて私の頬に弾る。
「シオン」
気高く美しいアテナ。
私があなたを想うほど、あなたも私のことを想ってくださっている。
誰よりもお優しいアテナ。
「シオン、もうよいのです」
「アテナ。いいえ、アテナ。あなたを守り導く役目を負ったのはこの私」
「シオン、もうよいのです」
「アテナ。いいえ、アテナ。守り導かれたのは私の方」
「シオン、もうよいのです」
「アテナ。いいえ、アテナ。これは罪です」
「シオン、罪ではありません」
「アテナ」
あなたは戦いの女神というのに、あなたは許しの女神。
あなたを守ることが出来なかったこの私に、あなたの命を奪うために甦ったこの私に、
それでも涙を零し微笑んでくださる。
「アテナ」
戦い傷付き、それでも優しさと許しを忘れぬ女神。
それは戦いの女神にはどんなに辛いことか。
「アテナ」
今度こそ、あなたを守りたい。
「アテナ」
今度こそ、あなたのお傍に。
「シオン」
私の名を呼ぶあなたは美しく、私のために涙を流すあなたは優しく、
人のために生きるあなたは勇ましく、人のために涙を流すあなたは女神。
「アテナ」
今度こそ、あなたの傍で、あなたに仕え、あなたを守りたい。
「アテナ」
私の涙を拭い、微笑んでくだるあなたを、
「嗚呼、アテナ」
あなたを誰よりも敬愛します。
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Pisces
アフロディーテ。
「如何なさいましたか、女神」
薔薇が咲いていますね。
「そのようです」
雨に濡れています。
「そのようです」
美しいですね。雨の滴に濡れた薔薇。
「そうですね」
貴方にとって薔薇は美しい範疇のものですか?
「その意図が分かりかねます」
貴方にとって薔薇は美しい武器?人を殺めるためのもの?
「その通りです」
平和のためにと云わないの?
「平和のためにと云えば人を殺める罪は許されるか?否、許されない。
もとより許されるつもりなど更々ありません。
必要とあらば私は悪魔に膝を折る。私は喜んで罪を犯すだろう。ただ」
ただ?
「ただ貴女の罰もまた喜んで受けよう」
私には誰かを罰する権利はありません。
私もまた何かを傷付け貴方の前に今立っているのですから。
私にとっての薔薇は美しい貴方、何かを成すために私は貴方に罪を強要するでしょう。
「成すべきものが私と等しくある限り、私は貴方に膝を折りましょう」
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Cancer
デスマスク。デスマスク。死の仮面。
「デスマスク」
ねえ、デスマスク。貴方はその仮面の下でどのような顔をしているのですか?
その仮面を取って見せて欲しいけれど、きっと貴方は嫌がるでしょう。
だって貴方は「デスマスク」なのですから。
いつかその仮面を貴方自ら外すときが来たならば、私は貴方の素顔を見てみたい。
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Pisces
「貴女は何故生まれた」
「地上の平和を守るために」
「アテナとして?」
「アテナとして、城戸沙織として」
「貴女は神か、人か」
「あなたの神の定義は何ですか」
「勝手な生き物」
「では私は神です。勝手に地上を守り、愛しているのですから」
「貴女は他の何かのために死ぬと云う」
「あなたも私のために死ぬことはない」
「私は私の信じるもののため死ぬのです」
「アフロディーテ、あなたは今何を信じますか」
「アテナ、貴女は信じるに足る者。貴女の信じるものため私は死にましょう」
「生きなさい」
「生きますとも。
貴女と私が同じものを信じる限り、私は貴女が愛するもののために死に、貴女のために生きよう」
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Capricornus
「アテナ、アテナよ」
山羊座の男が苦悩する。
「アテナよ、貴女への忠誠とは何か」
貴女を裏切ることにあるのか。貴女を殺すことににあるのか。
「アテナよ、私にはわからない」
罪を犯して尚わからない。
「シュラ」
アテナが手を差し伸べる。
「私への忠誠は、私の愛するこの地上のためなら、シュラ、貴方のその手で私を斬ることです」
アテナよ、貴女は何故そんなにも気高くあられるのか!
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Pisces
「アフロディーテ」
「おや、アテナ。こんなところに何の御用ですか」
「用事がなくてはいけませんか?」
「いえ、別に。貴女はお好きなように何処へでも行かれる方でしたね」
「貴方は薔薇に似ていますね」
「棘があると?」
「とても美しいと云っているのです」
「なるほど、では幾つか薔薇を、アテナ、貴女に捧げましょう」
「いいえ、アフロディーテ。切ってしまっては可哀相です」
「アテナ、私はそうとは思いません。
ここにあって命長らえるよりも、命尽きる少しの間に貴女の眼に掛かりたいと思う、
そのような薔薇もあるやもしれません」
「あら、私はそんな薔薇を美しいとは思いませんよ」
「美しいか幸福かは別問題でしょう。
例え貴女が美しいと思わずとも、薔薇が幸福ならば良いではありませんか」
「ではアフロディーテ、ほんの少し、薔薇を頂きましょう」
「御意。数ある薔薇の中でも、貴女のためならその身を散らしても良いという薔薇を貴女に」
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Gemini
あなたのその慈愛が、その許しが、私のより重き罪であり、罰となるのです。
私はその深い海に歓喜と共に沈もう。
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Pisces
「正論でこの世を嘆く者は、神か、世捨て人か、ただのあほだけですよ」
「私はそのどれだと貴方は思いますか?」
「世捨て人でないことは確実です」
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Pisces
「アフロディーテ」
182cm
「はい、何でしょう、アテナ」
155cm
「私が貴方の顔を間近で見たことがないのはどうしてでしょうね」
その差28cm
「それは私が貴女に跪かないからでしょうね」
腕を組んでにやり。
「残念です、一生貴方の美しい顔を傍で見れないなんて」
見上げてうふふ。
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Pisces
少女が受け取った紙袋にアフロディーテは手を差し伸べた。中には新しいドレス。
今さっきカードで衝動買いしたもの。
「持ってくれるのですか?」
少女は意外だとでもいう風に男を見上げた。
「貴方は女性の鞄を持たない主義だと思っていました」
「持たない主義ですよ」
アフロディーテは当然の如く渡された紙袋を提げて歩き出す。その横に少し遅れて少女。
アフロディーテはふふんと笑った。
「しかし子供の荷物は持ってやれねば、転んだときに両手が塞がっていては危ないでしょう?」
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