ペディキュアをしていたのだ。白い裸足の爪先に。
クイーンの椅子に座り、肘掛けに凭れて男を見下ろす。
ラダマンティスはその武骨な手でパンドラの爪先をまるで神に捧げるかのように持ち、
やすりで爪の長さを整えていた。丁寧で、硝子細工を意匠するようなそれ。
「パンドラさま」
「なんだ」
「色は如何致しましょう」
毒々しいローズレッド。艶やかなブラック。
「お前の好きな色にするが良い」
そう云えば、この男はどの色も選べずに途方に暮れるのだろう。
その姿を思い描いて、パンドラは口許に薄く笑みを浮かべた。
「黒だ」
「は」
ペディキュアとはおよそ遠く離れた武人の男の手がパンドラの爪先を飾ってゆく。
爪先のみを映す眼差しに晒されて、熱い。
パンドラは低く笑った。愉快な気分であった。
「トゥーリングだ、ラダマンティス」
ラダマンティスの手を爪先で振り払い、ペディキュアの仕上がりを眺める。
「トゥーリングですか?」
「脚の指のリングだ」
まあまあの出来だろう、パンドラは満足した。
「そのようなものは御座いません」
「ふん。気の付かぬ男よ、お前は」
この足の薬指くらいならば、お前の指輪をはめてやっても良かったものを。
爪先をラダマンティスの眼前に持ってゆく。ラダマンティスは云った。
「今はこれで我慢を」
そうして足の薬指に接吻けを落とされたなら、今宵のふたり遊びもまた深い闇に咲く花のよう。
|