コンビニSOS


※ 21才大学生イタチ×16才高校生サスケ
※ それぞれ一人暮らし


 土曜日の夜遅く、弟のサスケがイタチのバイト先であるカフェ「暁」に顔を出したため、今日はもう新規の客も来ないだろうと暇そうに欠伸をしていた面々に断ってイタチは少々早めに仕事を切り上げた。
 着替えを済ませ、サスケに待つようにと言っていた裏口から店を出る。
 カフェ「暁」はイタチとサスケがそれぞれ一人暮らしをするアパートから歩いて二十分ほどの距離だった。
 半年前の春、サスケは実家から通学に二時間以上も掛かる難関私立校への進学を機に家を出た。弟の志した高校がイタチの通う大学のすぐ傍にあったことは偶然か、それとも故意か。今となってはその真意はサスケにしか分からない。
 ともかく昔から代々続く名士の家柄を継ぎ、それなりに裕福であった父は学生の本分である学業に励むことと引き替えに、兄弟それぞれに一人暮らしをすることを許してくれた。ただ両親は幼い頃から独立心の強かった兄に比べ、父母や兄によく懐いた次男が兄よりも三年も早く家を出ることが余程心配だったらしい。サスケのアパートはイタチの部屋から五分と掛からないところに決められた。
 が、そろそろ二人で暮らそうか。イタチはいつ弟に切り出すか、そんなことをこの頃考えている。
 青白い街灯がぼんやりと照らす暗がりの帰り道を二人は他に人がいないことをいいことに、どちらともなく互いの手をそろりと探り合って結んで繋いだ。
 土曜日の夜はいつもイタチの部屋で過ごすけれど、今夜は夕飯を作ったと言うので丁字路の角を折れ、サスケのアパートへ続く道を歩く。
 しかし何を作ったのかと訊いても、大したものじゃないとサスケは手を繋いだままつれない。
 ただそれは謙遜ではなく本当のところなのだろう。サスケが料理を始めてまだ半年ほどだ。
 それにイタチも弟の腕前についてあれこれは言えない。イタチがまともに自炊するようになったのはつい最近のことで、サスケが越して来てすぐの頃、口うるさくちゃんと食べろよちゃんと寝ろよと散々世話を焼くことを言ったら、兄さんに言われたくねえと返され、それもそうだと思い、これまでの生活を改めた。
 以来、春先こそスーパーで惣菜を買うだけだったが、今では日曜日の夕食をああでもないこうでもないと二人して料理の本を覗き込みながら試行錯誤している。
「兄さん」
 と、それまで寡黙だったサスケが唐突にイタチの手を引き留めたのは、サスケのアパートがもう奥に見えるコンビニの前を通り掛かったときだった。薄暗い夜道の中で二十四時間のコンビニだけが真昼のように眩しく光っている。
 イタチはくんっと腕が引っ張られる感覚に足を止めた。
「どうした」
 訊ねるが、サスケはイタチではなく伏し目がちな視線をちらりとコンビニに遣った。
「おれの部屋に…アレはないからな」
「…ああ」
 なるほど。
 土曜日の夜、サスケの部屋へ行くのは今夜が初めてなのだ。
「おれは別に兄さんならなくても構わないが…」
 などとサスケはもごもご言うが、
「そういうわけにもいかないだろう」
 イタチはコンビニに足を向けた。
 が、ふと繋いだままの手に気が付いて、居心地悪げにしている弟を振り返る。
 少しだけ結んだ互いの手を持ち上げた。
「一緒に買いにいくか?」
 サスケが声を詰まらせたことはその微かな息遣いだけで分かった。