愉しいこと
※ 21才大学生イタチ×16才高校生サスケ
※ 兄さん一人暮らし
少し音が大きいんじゃないか。
シャワーを軽く浴び、居間へ戻ったイタチはテレビの音量に眉を顰めた。サスケの脇、カウチに放り出されたままのリモコンを取り上げる。特に断ることはしなかったが音量を下げるこちらを止めないことから、サスケもテレビを観ているというよりは眺めているだけに近いのだろう。
週末によくある地上波の二時間映画だ。以前、二人で暇潰しにとDVDを借りたこともある。物語は夜十時を回り、一度目の盛り上がりどころを迎えていた。派手な爆発音や銃撃戦、怒号が画面狭しと飛び交っている。
リモコンをローテーブルに戻したイタチは何をするでなく、手持ち無沙汰も手伝ってそのままサスケの隣に腰を下ろした。サスケは少し腰を浮かせ、一人占領していたそこをイタチのために空けてくれた。
ぼんやりと目まぐるしく明滅を繰り返す画面を眺める。遅めの夕飯の洗い物はシャワーの前にしておいた。部屋もざっとは片してあるし、洗濯物も既に畳んで所定の位置だ。
サスケにはこちらがそういったことを片付けている間に先に風呂へ入っておけよと言ったのに、彼は何だかんだとちょこちょこ手を出してきて結局まだこの様で、用事を済ませたイタチにシャワーの先まで越されている。
大して興味もないだろうにとイタチは思う。DVDを借りたときにも途中から飽いて、仕舞には携帯電話を弄っていた。
視線を隣に転じる。サスケはやはり今夜もまた退屈げだ。扇風機が首を振って送る風に黒のノースリーブに引っかけた白の襟付きシャツが揺れている。
そこから日に焼けないサスケの白い首許が覗いて見えた。
そういえば先週のちょうどこの頃、嫌がるサスケの鎖骨の窪みにどうせ一日二日のことだからと強引に付けた吸い痕は思った通りもう消えてしまったらしい。サスケはこの暑いのにネクタイも襟許も緩められやしないと腹を立てていたが、実際そうして制服を着たのは月曜日くらいだろう。保険で火曜日。
肌が白いな。
分かり切ったことが今更イタチの内で膨らむ。
自然、イタチはサスケの向こう側の肩を引き寄せた。
急のことに訝しむ眼差しを外して、先週ベッドの上でしたように少し顔を傾け彼の首に鼻先を寄せる。
あ…、と焦ったような声がサスケの唇からこぼれたが、止めようとするならもう遅い。ちろりと鎖骨の窪みを舐めて、それから肌をきつく吸い上げた。
一瞬、サスケが息を詰める。
だが、それにはかまわず、そこに何度か接吻けを繰り返したのは、きれいな赤い花を咲かせるためだ。どうせ短く消えてしまうものだから、今は自身の奥の奥にどろりと潜む支配欲を少しくらいは満たしてやりたい。
だが、サスケにしてみればまた兄に勝手をされているという思いが強いのだろう。ぐいとイタチの額を押し離すと、頻りに首の吸われた痕を撫で始める。
きつく吸ってしまったから痛かったのか。あるいは、どれほどのものか見えないから不安なのか。
であれば見えるところにも同じものを付けてやるだけだ。
二人の間にある邪魔なサスケの手を結んで下へ下ろす。一度は離れた距離がそれでまた狭まる。
イタチはサスケの鼻先にキスをした。それからそのまま鼻筋を辿り眉間に、額に、こめかみに。
ついでにそろそろ目を閉じるようにと瞼にも接吻けを落として促す。
同時に肩を抱いていた手を背中へ滑らせると、握ったサスケの手の内が俄に汗ばんだ。イタチと絡め合った指の一本一本がぎゅうと強まる。きっと弟の本音はこっちなのだろう。
一旦腰まで撫で下ろした手のひらを今度は頬に接吻けながら背骨を辿って上へ上へと上らせる。無防備に晒したうなじを揉んで、つんと跳ねた髪に指先を差し入れ後頭部を支えた。
この映画の続きを見たいか。
ふと思い出し、イタチは彼から言葉を奪ってしまう前に問うた。
けれど、サスケからのいらえはない。
しかし、それこそが答えだった。サスケの眸はもう閉ざされている。
炎上する高層ビル。
銃弾が雨あられと降り注ぐ街を疾駆する主人公。
車列が交通渋滞と追突事故を引き起こす。
所詮、すべて他人事だ。
「おれと愉しいこと、しようか」
唇を重ねながらイタチはサスケの肩から白いシャツを落とした。