この胸のときめきを


※ 21才大学生イタチ×16才高校生サスケ
※ 兄さん一人暮らし


 スポーツニュースが終わった後の深夜のテレビは退屈だ。元より世間の流行りに興味はないし、出演する女性たちがことごとく肌も露わな服装であるわけもサスケにはいまひとつ分からない。
 それでもこうして点けっぱなしにしているのは、サスケに一番風呂を譲った兄が風呂から上がってくるのを待つためだ。手持ち無沙汰よりはずっといい。今は参考書を捲る気分にはなれない。
 やがて聞こえていたシャワーの湯音が絞られた。バスルームのドアが開いて閉じる。
 着替えやドライヤーの物音がし、サスケは俄にそわそわと落ち着かなくなった。もうすぐ兄のイタチがこの部屋に戻ってくる。そうなれば今夜の二人がすべきはあとひとつだ。
 実の兄と関係を持って二年。決していやではないから週末ともなればこうして兄の部屋に理由を付けて通っているのだが、生来の矜持の高さが足を引っ張り、サスケは未だ女のように抱かれてしまうことへの抵抗感が拭えない。
 床からカウチへ上がり、思い直してもう一度床へと戻る。
 騒々しいテレビは消すべきだろうか。少し迷って、いや、それでは兄が風呂に入っている間中、今か今かと待ち構えていたみたいでなんだか卑しい。というよりは勝ち負けの、負けのようで悔しくなる。テレビは点けっぱなしにすることに決めた。
「何か面白い番組でもやっているのか」
 リビングダイニングの扉が開く。冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出したイタチは、それを片手にサスケの傍までやってきた。そうしててっきり背後のカウチやせめて隣に座るのかと思いきや、彼はわざわざ狭苦しいサスケとカウチの合間を選んで腰を下ろした。
「…おい、狭いぞ」
「そうだな」
 サスケが不平のつもりで言ったそれも兄には見たまんまの事実確認くらいでしかなかったのだろう。窮屈を気にした風もなく、弟の腹に腕を回し、後ろからぐっと抱き寄せ包んでしまう。
 風呂上がりの温かな体温と、その肌から香る石鹸やシャンプーの優しいにおい。それにサスケもうっかりくらりと心の隙を自ら開いた。誘われるように背を預ける。
 すると、兄の悪戯な手はすぐさまするりとサスケのシャツの裾から内に忍び入ってきた。そっと触れられ、ひくんと肌が震える。
「ん…兄さん」
 初めは子どもをあやすのに似た手つきだったのが、やがて戯れ合うそれに変わり、次第に肌をまさぐる愛撫になっていく。
 夕飯後しばらくしてイタチが「先に風呂に入ってこい」と言ってから、こうなることは分かっていた。期待もしていた。常日頃は淡々とした様の兄も同じ気持ちでシャワーを浴びていたのかと思えば面映ゆく幸せだ。
「サスケ…」
 耳朶に接吻けていたイタチの指先が胸の尖りを掠める。
 サスケは声なく「あ…」と息を詰まらせた。
「兄さん、そこはおれあんまり…」
 体が少しだけ強張る。胸は何も感じないわけではなかったけれど、どうせならそこよりもっと弄ってほしいところが他にある。
「いずれ好くなる」
「アンタはいつもそう言って触るが」
「折角なんだ。性感帯が多い方がお前もいいだろう?」
「……」
 あんまりの率直な言い様に思わず押し黙る。
 イタチから施されるのなら手淫も、恥ずかしいが口淫も、サスケは好きだ。
 背徳であるとは知りながら兄に後ろから体を貫かれることすら、つまり品のない言い方をすれば、イタチのそそり立つものに体の奥深くをこすられることすら快感に思う。
 だが、胸だけはいくら弄られても気持ちが燻るばかりで下半身や舌を絡ませるキスほどの高まりは得られなかった。
 だいたい兄もいつも熱心にそこを愛撫するが、こんな平らな揉みしだけもしない胸を触って愉しいのだろうか。今も点けっぱなしのテレビの中では女性たちが白く豊かな胸を揺らしている。さほど興味のないサスケでさえ彼女らの肌は柔らかそうだなと思うのだから、やはり兄もどうせならああいう胸を揉みたいのではなかろうか。
 何をどう思い詰めたところで、体のことはどうしようもないのだけれど。
「兄さん」
「うん?」
「男のそんなところを触って愉しいのかよ」
 サスケは二本の指先で胸の尖りを摘まむ兄に思いきって訊ねた。仮にイタチの手によってサスケが胸で感じるようになれたところで、イタチにとってはつまらない平らで固い胸に変わりはない。イタチのものを挿入するため後ろをじっくりと時間をかけ拓かれたときとは事情が違うのだ。
 だが、当のイタチは不思議げに首を傾げた。
「どうしてそんなことを訊く。お前、そんなにいやだったか」
「…べつに。いやなわけじゃないが、ただどうせ揉むなら女の胸の方がいいんじゃないかと思っただけだ」
 意図的に視線をテレビへと投げる。イタチもまたサスケの肌には触れたままテレビに目を遣り、合点がいったとばかり、ふふと笑った。
「なあサスケ」
「なんだよ」
「お前、おれに抱かれるのは好きか」
 突然の問いに一瞬言葉に詰まる。
 だが、答えはずっと前から決まっている。なにを今更言わせるのだろう。ぼそりと答える。
「…いやなら抱かれていない」
 確かに肌に触れるイタチの手は固い男の手だ。背を預ける胸も細身だが厚くて広い。
 だが、温かく、優しく、いつだってサスケを限りなく愛しんでくれる兄の体温を肌で感じられるから、サスケはイタチに抱かれるのが好きだった。
「おれも同じさ」
 イタチの手がまたサスケの胸に触れる。うなじに寄せられた唇には肌をうっとりとキスで吸われた。
「おれもお前だから、抱くのが好きだ」
「兄さん…」
 苦しいほど、ききゅんと胸が疼く。
 そうして、その胸の頂きを兄の優しい手がきゅっと抓った。
「あ…」
「サスケ」
「んん…」
「おれにとっては、お前のどこもかしこもが愛しいよ」
「あ…っ」
 ぞくりと体中が甘い痺れに犯された。爪先が開いて閉じる。
 この感覚には覚えがあった。まさか。
「兄さん、おれ、今…」
 ある予感に思わず兄を振り返る。すると、眦にまたひとつ接吻けを落とされた。
「ああ。もっとよくしてやるよ」
「あ、あ…っ、にいさん…、にいさん…っ」
 その夜サスケはイタチに導かれ、生まれて初めて胸で感じる甘い疼きとときめきを知った。