くちなし



 今夜は後ろから抱いてほしい。
 と、そういったことを多少難解ながらも言ったサスケをイタチは不思議に思った。
 取った古い宿の部屋、並べて敷いた布団の上で口吸いを何度も交わし、抱き合い、いよいよイタチがサスケの体を傾けたところの、先程の言だ。
 これまでを思い返してみても弟にそういった拘りや性癖があったようにも、言ったようにも思えない。
 かまわない。だがどうしたんだ。
 腕の中に訊ねる。
 すると彼はうっと詰まって、それから下の左右にわけもなくその目線をうろつかせた。
「声が抑えられそうにない」
 久方ぶりの交接だから体にもう火がついてしまっている。きっとこのままではふしだらな声をひどく上げてしまう。
 所詮安宿だ。壁は薄い。
 後ろからなら顔を敷布に伏せられる、とサスケはもう体をそうしようというのか、イタチの胸に腕を突っ張る。
 きっと今夜はいつにも増して蕩けた顔をこの弟はするのだろう。
 そう愛しめば、抱いた腕はいよいよ離し難い。
「ずっと接吻けておいてやるよ」
 イタチはサスケを押し切って布団の上に彼の体を仰向けに組み敷いた。
 まずは告げた通り、全て言葉を奪い去る。