月の夜



「サスケ…?」
 ふと夜の真ん中で目を覚ましたイタチは隣の布団にサスケの姿がないことに気が付き、首を巡らせた。姿を探す。眠るときに閉めたはずの窓の障子が薄っすらと開き、月明かりが畳に一筋入っていた。
 サスケが開けたのだろう。彼は両脚を投げ出し、ぼんやりと月を見上げていた。
「サスケ」
 イタチは起き上がり、彼の傍へ寄る。ひやりとしていた。もう季節は冬へと移ろい始めている。
 寝巻代わりの白い着物だけでは冷えてしまうだろうに。辺りを探したが、羽織らせてやれるようなものは何もない。
「また眠れないのか」
 イタチがそのことに気が付いたのは、ふたりでこうして旅に出てすぐのことだ。
 眠りが浅いのか、夜、サスケはあまり眠らない。イタチが目を覚ますと、彼は大抵何をするでもなくぼんやりと起きている。
 かといって昼間に眠るわけでもない。旅の休憩がてらイタチの肩でうとうとと舟を漕ぐことも稀にはあるが、だがそれだけだ。
 一度それでは体が持たないだろうと釘を刺したこともあったが、どうしようもないことだと諦めたように返された。
 眠るのはあまり好きじゃない、とサスケは言う。
 イタチにはそれがよくわからない。
 彼は今夜も物憂げに、何処か胡乱げに、兄を見上げてくる。それはサスケを理解しないイタチを責めているようでもあった。
 頬に触れる。肌が冷たい。
「抱いて、寝ようか」
 サスケを手折ったのは、なにもこれが初めてのことではないのだ。
 だから、サスケも素直に頷くのだろう。
「ああ。そうしてくれ、兄さん」
 サスケの手がイタチの首に回る。
 イタチは乞われるようにして彼の首に顔をうずめた。
 肌を吸えば、彼は「あ…」と溜息を洩らす。深い安堵のそれだった。