夜明けのコペルニクス


※ 21才大学生イタチ×16才高校生サスケ
※ 兄さん一人暮らし


「眠れないのか」
 イタチの問いかけに、サスケは閉じていた瞼を上げた。
 部屋は明かりを消して既に数時間が経つ。
 なんとか眠ろうと眼だけは頑なに閉じていたせいで夜目が効かない。兄の背中だけがぼんやりと見えた。
 そうしてやがて肩から腕、腰までのなだらかな輪郭が見え始める。
 サスケが寝しなに「暑い」と言ったため、ふたりで使うタオルケットは腰から下にしか掛けられてはいない。
 サスケだってそうだ。
 けれど幾度か寝返りをしたせいだろう、サスケに掛かるタオルケットはくしゃりとしてしまっている。
「悪い、起こした?」
 サスケはタオルケットを腰まで引き上げながら、兄の様子を窺う。
 つい先ほどまでは静かな寝息が確かに聞こえていた。
 起きてしまってのは、やはりサスケの寝返りのせいだろうか。
 ただイタチはそれには答えず、もう一度「眠れないのか、サスケ」と問うてきた。
 外は雨だ、それも酷い。
「雨が煩くて」
 気になって眠れない。
 大きな雨粒がひっきりなしに二人でいるこの部屋の窓を容赦なく叩くのだ。
 時刻はきっともう明け方に近い。
 それがサスケを余計に早く寝なければと焦らせる。
 けれど、そう思えば思うほど、目が冴えてしまう。
 雷が鳴った。
 大きい音だ。
「…眠れそうにない」
 サスケは少々苛立っていた。
 もう数時間もこんな風なのだ。
 いい加減、眠りたい。
「サスケ」
「なんだよ。アンタは眠れるみたいだから、寝てくれていいぜ。おれに付き合う必要はない」
「そうじゃない。サスケ。眠れないなら眠れないで、いいんじゃないか」
 そんな意外なことをイタチが言う。
「…でも、明日、寝坊する」
「明日は休みだから、構うことはないさ」
「でも、明日は朝から出掛けるはずだろ。朝飯もどこかで食べて、それから…」
「おれは昼からでもいいぞ」
「おれが朝からがいいんだ」
「それじゃあ、おれがお前を必ず起こしてやるよ」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
 ふと、イタチの後ろ肩に額をあてる。
 雨も雷も、サスケから遠のく。
 代わりに、「サスケは兄さんにくっつくのが好きね」といつか母が微笑んだ声が聞こえてきた。
 とくん、とくん、と鼓動が落ち着く。
 これは兄の胸の音だろうか。それとも、
「…少し眠くなってきた」
「そうか。まだ話していてもいいんだぞ」
「うん。まだ話していて、兄さん」
 眠らなくてもいいと言って。
 明日は休みなのだから。
 出掛けるのはいつだってできるのだから。
 何度でもそう言って。
 そうしてそんな中で眠りについて、明日の朝にはイタチの声で目を覚ましたいとサスケは強く強く願うのだ。