夕立
※ 21才大学生イタチ×16才高校生サスケ
※ 兄さん一人暮らし
コンビニ店員特有の商売っ気のない「ありがとうございました」の声を背に店を出た途端、頬にぽつりと雨粒が落ちた。
空を見上げれば、灰色の重苦しい雲が辺り一帯に深く垂れ込めている。
これはきっと酷くなる。
そう思う間もなく、雨は突如本降りとなった。ざあざあという音さえ聞こえるような夕立だ。
サスケは迷った。
コンビニに戻り傘を買うか、それとも走るべきか。ここから兄のマンションまで徒歩五分もかからない。
その時だ。ばさりと頭から何かが被せられた。
次いで肩を抱かれるようにして、前へ押し出される。
「走るぞ、サスケ」
少し遅れてコンビニから出てきたイタチがサスケに走るよう促した。
雨の中、走りながらちらりと横を見遣れば、イタチのシャツがみるみる濃く濡れ、その長い髪からは雨粒が滴る。
一方のサスケはイタチの上着に頭と肩だけはどうにか守られていた。
もちろん長くは持たないだろうが、走ればマンションのエントランスまで三分と掛からない。
オートロックを解除し、エントランスへ駆け込む。
ちょうど一階へ降りてきたエレベーターに乗り込み、ふたりは一息吐いた。
「おい」
サスケはイタチの上着を頭から取り払いながら、むすっと頬を膨らます。
おれは腹を立てている、と兄に伝わればいいと思った。
「おれ、アンタのこういうところ、むかつく」
サスケの代わりに濡れてくれた上着をイタチに突っ返す。
イタチは少し重くなって頬に張り付いた髪を掻き上げて、笑った。
どうやらサスケのむかっ腹は予測していたらしい。
「許せ、サスケ。性分だ」
どうもこの兄は優先順位の一番下に自分を置きたがるきらいがある。
サスケにとって、それはあまり喜ばしいことではない。
「ふん。アンタはいつもそうやって誰彼となく、」
「そうじゃない。これはお前の兄としての性分だ」
「兄としての?」
そう、つまり、とイタチにそっと耳打ちをされる。
「お前にだけだよ、サスケ」