雨の日の話のおまけ
※「雨の日の話」の後日談
※ 21才大学生イタチ×16才高校生サスケ
※ 兄さん一人暮らし
月曜日の朝を告げる目覚ましが鳴る。けたたましくはない。小さなデジタル音だ。
そもそもイタチは目覚ましがなくとも、朝の気配で目を覚ますことが多い。
今日これに頼ったのは、普段よりも一時間ほど早く起きる必要があったからだ。
ベッドサイドに手を伸ばし、目覚ましを止める。
遮光カーテンを引いた部屋はまだ薄暗かったが、隙間からは朝の日の光が差し込んでいる。
だが背後を見遣れば、サスケはまだ深い眠りの中だ。
イタチの肩に額を摺り寄せるようにして眠っている。まるで背に縋るこどものようだ。
いつもの強気な眸は瞼に隠され、離れていた間に随分と生意気に斜に構えたようになった顔つきも今はただ幼い。
イタチが家を出る前は何をするにもイタチを慕って付いてきたサスケだ。
生来この弟はどこかでいつも人恋しいという思いを抱えているとイタチは見ていた。
拍車をかけたのは、きっと父であり、兄である自分だ。
父や母、そしてイタチがサスケを「サスケ」と呼ぶ。サスケはそれを喜びにしてしまっている節がある。
両親の前ではうまく隠しているのかもしれないが、そういう幼いサスケがイタチの前でだけまた姿を見せ始めていた。
「サスケ。朝だ。起きろ」
イタチは体を起こしながら、隣のサスケの肩を揺すった。
するとサスケは眉間にしわを寄せる。
それから言葉にならない言葉をもごもごと呟き、布団の中に居心地の良い場所を見つけてもぐってしまう。
「サスケ」
ベッドから降りたイタチは身支度を整えながら、カーテンを開け放った。
眩しい光が薄暗かった部屋に溢れる。
それでもサスケは布団の中でもぞもぞと動くばかり。
「今日は学校だろう。一度家に帰らなければならないんじゃないのか、お前は」
土曜日にいつもの駅で拾ったサスケは日曜日もイタチのマンションに泊まった。
ぐずぐずと終電を逃し、仕方なくイタチが家の近くまで車で送っていってやろうかと提案したのも「明日朝一で帰るから」とサスケが断ったのだ。
「おれは朝の支度をしてくるから、お前は顔でも洗ってこい」
そうして寝室を出ようとしたイタチにようやくサスケの寝ぼけた返事が返ってくる。
「朝飯はいらねえ。その分まだ寝る」
イタチは引き返し、サスケの包まる布団を取り上げた。
「甘えるな、サスケ」
パンと卵が焼きあがるころ、ようやくサスケはリビングキッチンに姿を見せた。
洗面を済ませ、少しだけ目が覚めたようだ。
それでもまだイタチの貸してやったパジャマ代わりのシャツから着替えていないことから、今朝はずいぶんと寝起きが悪いことが見て取れる。
昨日は遅くまで眠れなかったらしい。イタチもそれに付き合ったため寝不足だ。
テーブルについたサスケは並べられていく朝食にはまだ手を付けない。
きっとイタチが向かいに座るのを待っているのだろう。
その代わり、イタチの席に置いてあったカップに手を伸ばし、引き寄せた。
朝食の支度をする前、イタチが自分のために淹れた飲み止しのコーヒーだ。
別にサスケがそれを飲むことは構わなかったが、牛乳をたっぷり入れているため随分と甘いはずだ。
気づいたイタチが「サスケ、それは」と止めたが、サスケもまた構わないようだった。
「いいんだ」
と、まだぼんやりとした様子で呟いて、カップを傾ける。
「偶には甘いのでもいい」
サスケの喉がこくりと鳴る。
それから「やっぱり甘いな」とサスケはちょっと困ったようにミルクキャラメル色をしたカップを見つめて笑った。