ファンタジー Brothers 30

China Love
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世界の創造


 アンタは世界の構造と材料について考える。ああして、こうして、あれが要る、これは要らない。

 そんなまどろっこしいことより大切なことあるんじゃねえの。

 アンタと俺。

 ほら、世界が出来た。




選ばれし者


 誰かに選ばれるのではない。私が私を選ぶのだ。




手には剣を



 もう無縁のものだと投げてよこしたのは騎士団長の指輪。

 剣を捨てなかったのがアンタらしいよ。

 この人は再び立つだろう、剣を手に。そういう人だ。

 俺に過去だけを残して去り行く男の背には縋れない。




魔法


 彼は私をその胸に引き寄せ云った。魔法の言葉を教えてあげようと。

 やわらかにゆるやかにじわりととけだす魔法の言葉を教えてあげようと云った。

 「ごめん」

 彼が呪文を唱える。

 「泣いていいよ」

 あのとき差し出された手の温かさを今知る。




お告げ


 誰かが右の頬を打つなら、左の頬も向けなさいと神はのたまう。

 でも殴られれば痛い。すげえ痛い。この気持ちは何処へ行けばいい?




最高の仲間


 「所謂神さまを造った奴はきっと寂しかったんじゃないかって最近思うんだ」

 最近食事前の祈りを止めた私に向かい合う席に座ったククールは云った。

 スプーンでスープをすくい口へと運び、飲み下してまた云う。

 「ひとりじゃ寂しかったんだよな、きっと」

 パンをちぎって放り込む。

 そのままテーブルに肘を着いたので、視線で咎めた。

 「俺も最近祈らなくなった。面倒ってのもあるけれど」

 肩をすくめて、再び左手にスプーン右手は皿に沿える。

 「もう俺たちに神さまは必要ないのかもしれないな」

 そう云ってスープを掬い上げ、眸を伏せ、「ふたりだから、寂しくない」

 それほど熱くもないスープに息を吹きかけ冷ますククールはそんなことを呟いた。




迷子


 少し詩を嗜むという彼女は俺を見て、さびしいの?と問うた。

 「いつも誰かを待っているみたい」

 それは私じゃないのね、と微笑んだそれがあまりにも哀しげで俺はそれっきり彼女とは別れた。

 彼女が可哀想だったからじゃない。

 俺もまたそういう顔を、眼をしているのだと思うと、怖くなって逃げたんだ。





予期せぬ別れ


 彼は縋りつくような青で、問い詰めるようなくちびるで、震えを隠した強がりの別れを告げた。




奇襲攻撃


 「そんなに手ごわい敵さんなら、夜襲でも掛けたらどうですか」

 「騎士道に反する」

 「へえ、あんたにも騎士道なんてあったんだ?」

 「表向きは、な」

 「ああ、納得。じゃ今は裏向きに、夜襲掛けて頂けませんかねえ、俺に」




形見の品


 再会の兄弟。

 「あああ、兄貴!俺だよ、俺。アンタの可愛い小悪魔、弟のククールだぜ!」

 「私はお前のことを弟とも可愛いとも小悪魔とも思ったことはないわ!」

 「まあたまた!俺の顔、タイプなんだろ?ああ神さま、感謝します。

 兄貴好みの顔で生まれてこれて良かった。

 ついでに今ここで再会できたことも感謝しておきます、やーどうもどうも」

 「そんな神、私は呪うぞ」

 「だってもう、俺これでもけっこうまあんー…うん、必死のような感じで兄貴を探して三千里してたんだ」

 「あまり必死でなかったのだな」

 「う…。いやいややいや!毎日毎日兄貴がくれた指輪を形見だと思って」

 「私は死んでなどおらん」

 「うん。知ってるよ」

 「……」

 「アンタのことだから、絶対死ぬはずないって思ってたさ。何処までも貪欲な人だから。

 拾った命を捨てるよりは、それをどう生かすかを考える人だよ、アンタは」

 「ならば何故形見などと。というか形見の意味そのものを知らんバカなだけか?」

 「うう…!え…じゃなくて、ほら!そう!騎士団長の形見なんだ。

 酷い人だったけど大切な人だから、持ってるんだよ」

 「何をそれらしいことを云っている。お前、形見の意味を間違っていただけのバカだろう」

 「いいやもう、なんでも。俺、過去の遺品なんてしけたもん要らねえよ。全部丸ごとアンタをよこしやがれ!」




故郷


 旅の仲間たちはそれぞれの道を歩み出した。彼等の道は決まっている。

 だが、アンタはどうすんの?と仲間のひとりから問われるほど、俺ってブラブラしてそうに見えてるのか。

 確かに聖堂騎士団も抜けて、どうすんの?って彼女だけではなく、あっちの娘やこっちの娘、

 とにかくそんなにも俺はアレなのかとちょっと哀しくなってしまった。

 俺と一緒になってくれる?なんて、

 「バカね」と断ってくれる娘たちには冗談こいたが、俺はひとり田舎に引っ込んだ。

 金はそこらのモンスター相手にしてりゃ手に入るし、

 そこそこ近い町でお酒も女の子もイカサマブラックジャックだってできる。

 そうして毎日を無駄に過ごしてるわけじゃない。

 あの気難しい割りにゃ何処か大雑把、口煩いのか無口なのか、いい男なのかしょーもない男なのか、

 兄なのか何なんだか、そういうアイツを待っている。

 だって家族だもん。

 俺が家になってりゃ、いつか休みに帰ってくるさ。

 そういうときのために、俺は最近アイツが気に入りそうな俺にはよくわかんない本、

 全59巻を買い揃えている。

 レンタル禁止、読み終わるまでは、ま、午後のお茶くらい注いでやるさ。




天空に


 空色を写した灰色の雨粒に世界を見るかのようにマルチェロは云った。

 「私はただこの厚い雨雲のその上を見てみたかったのだ」




破壊者



 ククールが積み上げる積木は誰かが踏みにじったように歪んでいた。

 ぐらぐら、ぐらぐら、積み上げて小さなおうち。

 お城なんてたいそうなものを作りたいわけじゃない。砦だなんて堅牢なものを作りたいわけでもない。

 小さな家でいい。

 そんなククールの歪んだ家をマルチェロは根こそぎ振り払った。

 積木がまた壊れる。またひとつ歪む。もっとぐらぐらになる。

 「やめろよ。やめてくれよ」

 ククールは訴えた。

 両手を広げて積木のけれど崩れた家をそれでも庇った。

 マルチェロはククールの腕越しに歪んだ積木を見下ろして笑った。

 あれは、あの踏みにじられた積木はマルチェロの積木。

 「最初に踏みにじったのは、貴様だろう、ククール」

 今日も積木のおうちはぐらぐら、ぐらつく。




夢見る力


 実際きっとこの壁の向こうへ行くことなど簡単なのだ。ククールは額を修道院の塀へと寄せる。

 こんな断片の空でなく空という空の下へ行くことなどひどく容易いのだ。ククールの息は壁に跳ね返る。

 それでもあの日があるから越えられない。

 心の一番やわらかいところにしまったあの日の手がこの羽根をもいでいる。




習得しました


 騎士団長の青を脱ぎ捨て、黒衣を纏い世界を歩いて数ヶ月。

 不意に嫌な予感がして晴れ渡った空を見上げる。その瞬間、「おおおお!?やべっ、避けて避けて!」

 私を不幸に陥れるしか出来ないククールが遺憾なくその能力を発揮して私の上に落ちて来た。

 何故私がこいつのために地に這わねばならんのだ。

 「貴様…」

 最早何をどう云って良いか解らず、とりあえず立ち上がりククールの脇腹を数回蹴り飛ばす。

 ククールの姿はあの派手な騎士服ではなく、旅人の格好でもない。村人Aのような軽装だった。

 「いてっ、痛いって!マジでアンタ蹴ってるだろ!?」

 「私は冗談は嫌いだ。お前も嫌いだ。空から降ってくるお前なぞ本当に嫌いだ」

 見下ろせばククールは蹴られた脇腹を押さえながら、なんとかその場に上半身を起こしたところだった。

 「え…と、じゃあ空から降るのはもう止めます」

 「是非そうしてくれ。ではな」

 彼に背を向けて再び歩き出すが、今度は背中に体当たりを食らって、よろめいた。

 「貴様!」

 振り返ればククール。

 「わっ、ごめん。やっぱ至近距離でルーラってのは体によくないみたいだな」

 「ルーラだと?」

 「うん。俺、ルーラの場所にマルチェロって項目作ってみたんだ」

 いかん、眩暈がしてきた。

 「さっきもルーラでジャンプしてみたんだけど、まさかアンタの真上に飛んじゃうとは思わなかったね」

 「私もいきなりお前が降ってくるなど思わなかったぞ」

 「そりゃそうだろうな。でもさー、こう格好良く受け止めるとかしてくれてもいいよな、あの場面」

 眩暈に続いて頭痛まで併発だ。

 私は額に手を当てながら話を逸らすことにした。

 「…で、お前は私にいったい何の用だ?」

 訊くと、ククールは難しそうに首を傾げた。

 「うーん…実はマルチェロルーラが本当に作用するのか確かめたくて。

 ほら、習得した魔法って無意味に使いたくなるだろ?スライムにグランドクロスとかしちゃったり」

 「そうだな。私は最近習得したザキを唱えたい気分だ」

 「ごめん、あ・に・き。俺、アンタに会いたくて」と突然ぎゅうと抱きついてくるから、その頭を殴った。

 「いってー」

 「もういい。何処かに行け。散れ。去れ。ついでにくたばれ。お前が行かぬのなら私が行くわ!」

 スタスタスタスタ。

 「おお!?って、待てよ、ルーラ!」

 どっかん。

 「……」

 スタスタスタスタスタ。

 「ルーラ!」

 どっこん。

 「……」

 スタスタスタスタスタスタスタ。

 「ルーラ!」

 どかーん。

 「ククール!」

 「うるせー!付き纏われるのがうざいなら、俺の傍にいろ!」

 なんて乱暴な解決策なのだろう。

 とりあえずルーラで体当たりされるのがうざいので、ククールを引き摺り歩きながら今後を考える。




宝探し


 少し疲れて座り込んだ視線の先に誰かの足が見えた。

 声が降る。

 「お前の大切なものは見つかったか?」

 嗚呼。俺はただただその誰かの足先だけを見つめるばかり。

 「今、見つけたよ」




城へ戻る


 騎士団員の一人が礼拝堂に靴音を立て入った来たので、マルチェロは壇上から振り返った。

 礼拝堂にはマルチェロと騎士団員のみ。

 言葉にはしなかったが、その視線で意を汲んだのだろう騎士団員は体を縮めた。

 「何事だ」

 聞けば、聖堂騎士団の一隊が付近の警備に当たる時間だというのにある騎士が姿を現さないと云う。

 マルチェロは探しておこうとだけ告げ、その騎士を下がらせた。

 再び静寂の礼拝堂。

 その壇上の右横にある扉をマルチェロは迷うことなく開き、薄暗い廊下を奥へと進んだ。

 そうして告解室の扉を押したなら口端を上げる。

 「聖堂騎士団員ククール、勤めの時間を忘れたか?」

 普段は信者の懺悔に耳を傾けるそこにククールは座り込んでいた。

 赤い騎士服は半端に肌蹴け、下履きも乱れたまま。ククールは汗に濡れた前髪を掻き上げる。

 「ああ、時間忘れるほど気持ち良かったんで」

 薄闇の中でその青い獣の眸が光った。マルチェロは早く行けとだけ口にした。

 ククールはやれやれとばかり立ち上がる。

 「ていうか、今日いきなり盛って来たのは団長殿だと俺は記憶してますが?」

 「私はお前の勤め時間の前には終わらせた。座り込んでいたのはお前だ」

 「だってアンタ激しいんだもん」

 下履きの乱れを直し、上着の金具をとめる。

 そうしてやや緩んだ髪を縛り直し、ククールは放り出してあったレイピアを拾った。

 「いっそこのまま俺ここでさぼるから、謹慎三日とかになりませんか?」

 団長殿の部屋で。その言葉をマルチェロは鼻で笑うのみ。

 ククールは告解室の扉へと一歩を踏み出す。

 「こんなとこで逢引きなんて、燃える展開だね。不道徳極まりなくて刺激的だ」

 その言葉にマルチェロは眼を閉じた。

 「聖堂騎士団員ククール」

 それは騎士団長の声。

 「はい、団長殿」 

 それは騎士団員の声。

 「もっと薄暗いところで会いたいかね?」

 片目だけ開いたなら、緑が光る。

 ククールはとんでもないと肩をすくめた。

 「痛いの嫌いなんで」

 「ならばさっさと行け」

 マルチェロの光りが鋭さを増す。

 「はあい」

 ククールは間の抜けた返事を返し、告解室を去って行った。辺りは静寂の薄闇。

 ふと見下ろせばククールが残した白が床にあった。

 マルチェロは何事もなかったかのようにそれを靴の裏で踏みつけ、告解室を後にした。




それは武器ではない


 「アンタを斬るつもりなんてないんだ」とククールは剣をかまえた。

 「でもアンタに斬られるつもりも、もうない」

 マルチェロがいくら剣を振りかざしても、ククールは斬り込んでは来なかった。

 「アンタがこうしてしか俺と交われないというなら、俺の剣はアンタを受けとめるためにあるんだ!」

 刃と刃が噛み合う。

 それはふたりの世界にもたらされたはじめての均衡とも云えた。

 






 「ていうか俺、途中まではマルチェロクエストだと思ってました。

 てっきりラスボスかと。俺的にはもうラスボスだけどよ。…略したらマルクエ?」

 「微妙だ…」

 「いやマジな話、マルクエ出たら売れると思うぜ。俺と兄貴がムフフ…って、痛てえな!殴ることないだろ」

 「煩い。黙れ。死ね。私のために死んでみせろ!」




迷いの森


 来た道、行く道、現在地は混迷。

 しているとただ思いたいだけなんだとククールは森の更に奥を目指しながら思う。

 本当は知っている。回れ右をして全速力で走れば良い。

 けれど迷う振りをして、より森の深くへ。闇の深淵へ。

 「俺は捕まっていたいんだ」

 究極のマゾだとククールは自嘲した。




犠牲を払っても


 「もうやめろよ、こんなこと。こんなことをして傷付くのはアンタじゃないか」

 マルチェロは犠牲を払っている。

 「誰が私の何を誹ろうとも、それは私の一部に過ぎぬ。

 私は私のためになら、喜んで私の一部を斬り落とそう」

 マルチェロはマルチェロという犠牲を払い、マルチェロとして今ここに在るのだ。




跡継ぎ


 兄が珍しく弟に云った。

 「誰かがおらねば生きてゆくことさえ出来ぬ、ただ泣くだけの赤ん坊と比べて、

 私が十年間積み上げたものが全て劣っているなど、正しいこととは到底私には思えんよ」




儀式



 それはまるで慣例化された儀式のようだった。

 騎士団長の指が面倒くさそうに俺を呼ぶ。俺はそれに答えて彼の傍に寄る。

 少し高い位置から、その逞しい腕が伸びてきて、ほんの一瞬だけ抱きしめられたような格好になる。

 それはただ俺の髪を結ぶ結い紐を解くためであって、決して抱きしめられているわけじゃない。

 でも俺はその瞬間がなにより好きだった。

 彼の胸に頬を預けるには俺は背が高すぎたけれど、

 その腕におさまるとき、彼の闇に取り込まれたような感じがして、俺は酷く安心していた。

 髪がほどけて、闇に零れる。




絶体絶命


 他愛のない賭けだった。団員同士のカード遊び。雑用の押し付け合い。

 「くっそ、またククールの勝ちかよ」

 「そういうわけで訓練用の剣の片付け、よろしくな」

 数人の団員たちがわめくが、ククールは涼しい顔。

 「ククールばっか勝ちやがって、絶対おかしいって」

 そうぶつくさの団員に内心頷く。おかしいさ、イカサマだもん。

 しかも性質も悪く、徐々にククールと団員の勝敗の差が狭まるような仕掛け有り。

 「おい、もう一勝負しようぜ」

 もしかしたら次こそ勝てるかもしれない、この心理の植え付けがイカサマには必要不可欠。

 ククールはいいぜとカードを切った。

 「けど俺の一週間分の雑用はもう全部お前らがやってくれるし、お前らは何賭けてくれるんだ?」

 「…しゃーねえな、金でいいか?」

 「ま、仕方ないね」

 なんてね、それが一番欲しいもの。今夜は雑用もない、ドニの酒場で豪遊だ。

 ククールがぺろりと舌なめずりをした、そのときだった。

 「なにをしている」

 背後から声、目の前に降ってくる手。

 カードを固まった手からすいと抜かれて、見れば団員たちが後ずさり。

 今夜は懲罰室で説教かとククールはがっくり肩を落とした。




全てを知る者


 崖にも掴まっていられない、その腕の傷はどうしたの。刺されたの。刺したの。

 どうしてアンタを奪おうとするものから助けてと、どうしてその一言が云えないの。

 そうだね、云えないね、知ってるよ。

 そういう風にしか生きれない、生き残れない場に身を置いて、

 風に身を切られながら、ここまで進んできた人だから。

 「だから俺はアンタを許せる」

 アンタの自ら刺したその腕が痛み続ける限り、俺はずっとその手へとこの手を差し出すよ。 




裁きの時


 私を見放したその手に、私から全てを奪った刃を握り、神の法を唱えて、私を断罪したくばするがいい。

 神よ、あなたはこの私を裁けるのか。




ひと休み


 「もー疲れた。一歩も動けねえ。というわけで兄貴ー、おんぶー」

 「本当に一歩も動けないようにしてやろうか」

 「あと100キロくらいは余裕で走れるぜ!」




見えない敵



 「アンタは過去が怖くて、先を見据える振りをしているに過ぎない。

 怖いんだろう?過去が。力もなく捨てられるしかなかった、アンタ自身が。

 だから俺のことも、見ない振りをするんだ!」




また会いましょう


 追いかけなくていいの、と云われた。探しに行かなくていいの、とも云われた。

 「べつに、いいんだ」

 俺は笑った。

 「俺は俺、兄貴は兄貴。まだどっかで擦れ違うこともあるさ」

 なんてったって、アイツ生きてるもん。




その人伝説に於いては


 突然私の前に現れて彼は云った。

 「なんもかんも捨てて来ちまった」

 救世主の名誉もその将来も捨てて来たと彼はへらへら笑う。

 「きっと何百年か後の歴史の教科書では、救世主ククール・世界の危機を救った後の行方はわからない、

 みたいなこと書かれてるだろうな」

 いったい何が楽しいのか、またけらけら笑う。

 私は理解出来ないと彼に云った。すると、

 「俺には地位も名誉も大して重要じゃねえんだよ。そんなもんより俺には大切なものがある」

 アンタだよ、と道の往来で抱きつかれ、

 私はとりあえず馬鹿でアホでこの仕方のない弟を蹴っ飛ばしておいた。

 再び歩き出した私の背後でククールが、

 「あーあ、こんなことなら地位と名誉とっときゃ良かったよ」

 文句を云いながらも、その足音は止まず、止まず。





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