散花
咲く沙羅双樹の花。
見上げて女神、「また沙羅双樹が咲きましたね」
微笑む。
「あなたと共に散った沙羅双樹」
そっと幹に手を触れる。
「あなたの死を悼んで散った沙羅双樹」
哀しみに揺らぐ、慈愛の眸。
「こうしてまた咲いたのは」
振り返る、麗しの女神。
「あなたが生きているからなのですね」
哀しみを振り払うように、微笑む。
「それはとても嬉しいこと」
再び沙羅双樹を見上げて女神、「生死の価値はそれぞれですけれど」
閉じられる眸。
「私は誰かの死を哀しく思います」
風に流れる細い髪。
「私はあなたを殺しました」
風に吹かれる細い体。
「最も辛い死をあなたに与えました」
風にさらわれそうな女神。
「私がもっと早くに死を決断していれば」
風に流れ吹かれさらわれる眸の滴。
「あなたは死を負う必要はなかった」
拭うことなく、
「あなたは私に死を囁く必要はなかった」
見つめる女神。
「私はあなたに最も辛い死を与えました」
そして、
「せめて」
幹に這わされた白い指。
「この沙羅双樹が哀しみで散花しないよう」
死を悼んで散る花、沙羅双樹。
「女神」
もしもあなたという花が散花したなら、
「このシャカ」
女神の死を悼み、沙羅双樹のように散花しよう。
沙羅双樹に見送られまたふたり、
「地獄の旅路を逝きましょう」
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